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 大雨が年ごとに激しさを増し、日本列島各地で甚大な被害が相次いでいる。従来のようにダムや堤防を整備するだけでは追いつかないとして、住民、行政、企業などあらゆる関係者が協力して流域全体でさまざまな対策を取ろうという「流域治水」に、防災対策のかじが切られた。どんな取り組みが進んでいるのだろうか。(伊藤隆太郎、グラフィック=米沢章憲)

 コンクリート製品メーカー「日本ヒューム」の熊谷工場(埼玉県熊谷市)。広い敷地のなかには深さ33メートル、直径9.5メートルの円筒形のコンクリート製巨大マンホールを製造するための設備がある。

 マンホールの厚さは75センチ。主に都市部の地中に埋設し、管一つで1500トンの雨水を一時的にためられる貯留槽として使われることを想定している。

地中に貯留施設、垂直型にして都市部にも設置可

 ビルの地下階や地下鉄の線路などが張り巡らされる都市部の地中にも設置しやすい垂直型の設計にした。製造工程では、巨大な鉄製の型枠に流し込まれたコンクリートが、電動モーターによる振動を加えて圧縮することで固く高密度になり、大きな水圧に耐えられるようになる。

 同社によると、局地的な豪雨により雨水が川に排水されず道路や宅地に水があふれる「内水氾濫(はんらん)」が近年増加していることが、開発の背景にある。上流のダムや河川の堤防強化だけでは、これに対応できない。実際の受注はこれからだが、ゼネコンを通じて自治体の発注が次々と舞い込むことを期待している。

 担当執行役員の古谷彰浩さんによると、工場でパーツを製造し建設現場で組み立てる工法のため、「工期を半年程度に短く抑えられるのも利点」という。

 地下に大量の雨水をためる施設としては、「地下神殿」とも例えられる「首都圏外郭放水路」が有名だ。埼玉県春日部市の国道下に長さ6.3キロにわたって整備されている。

 周辺を流れる川が増水した際に、一定の流量を超えると水路を伝って水が流れ込んで貯留され、一定の水位を超えると別の川へと排水されて洪水を防ぐ。2002年に部分的に供用が始まって以降、今年7月までに147回稼働。国土交通省関東地方整備局は、計1484億円の浸水被害の軽減効果があった、としている。

 対照的に小さく簡易な装置を大量に使って、いち早く浸水状況を把握しようとする試みも始まっている。

500円の小型センサーで検知を目指す

 国土交通省が2年前から実証実験に取り組んでいるのが、ワンコイン浸水センサー。メーカーによって仕様は異なるが、基本的にはペットボトル大の容器内に、電池や通信機を組み込み、外に延びたセンサー部分が水につかると浸水を検知する。

 住民や企業の協力も得ながら…

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