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乗鞍岳の山頂付近にある乗鞍観測所=2024年9月8日、長野・岐阜県境の乗鞍岳、小室浩幸撮影

 長野県と岐阜県にまたがる北アルプスの乗鞍岳(標高3026メートル)の山頂近くにこの夏、戦後まもなく日本の宇宙線研究が始まったことを伝える碑が建てられた。ニュートリノ観測で二つのノーベル賞をもたらした「お家芸」とも呼ばれる宇宙線研究の原点は、この場所にあった「朝日の小屋」にさかのぼる。

 ふもとからのシャトルバスが到着する乗鞍畳平(標高2702メートル)から頂上に向けて歩くと、登山客らでにぎわう山小屋「肩の小屋」がある。

 その先に見えるれんが色の建物へ続く道のわきに、東京大学宇宙線研究所が建立した記念碑があった。御影石の碑文には「朝日の小屋址 高地における日本の宇宙線共同研究発祥の地」と刻まれている。

 記念碑の立つ空き地には、1950年に朝日新聞社の朝日科学奨励金を受けて建てられた観測小屋があった。欧米に立ち遅れていた宇宙線観測に力を入れようと、研究者たちが奨励金100万円を原資に建てた。

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「朝日の小屋」跡地に建立された記念碑と乗鞍観測所=2024年9月8日、長野・岐阜県境の乗鞍岳、小室浩幸撮影

 3年後には隣接地に全国の研究者が共同利用できる宇宙線観測所(現・乗鞍観測所)の設置が決まり、近くに建てられた東京大学東京天文台(現・国立天文台)のコロナ観測所とともに、大気に邪魔されにくい高地での観測が始まった。

 「肩の小屋」で働く福島敬さん(52)によると、経営者だった祖父の清喜さんが資材を運ぶ作業員(歩荷(ぼっか))を手配するなどして朝日の小屋の建設を支えたという。記念碑について、敬さんは「たどってきた歴史が知られるのはうれしい」と語る。

 研究仲間3人と奨励金に応募して、朝日の小屋を建てた皆川理・神戸大名誉教授(故人)の手記によると、乗鞍岳を選んだのは、旧日本軍の戦闘機開発の実験施設があり、ふもとからトラック道路が整備されていたからだったという。

 建設費を節約するため知人の…

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