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パンを売る加納基さん=2023年12月1日、静岡県伊豆市八木沢、阿部育子撮影
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 海と空が広がる静岡県伊豆市土肥地区。海沿いに点在する旅館や家々の中に、ひときわ目立つ木造の小屋がある。

 食パンをかたどった看板に、「天然酵母のオーガニックぱん」という手書きの文字。このパン屋「松鶴堂」は、名古屋市内に住んでいた加納菜未子さん(37)、基さん(38)の家族が移住を機にオープンした店だ。一つの大きなきっかけがあったわけではない。様々な偶然の積み重ねで、5人家族はこの土地にたどり着いた。

息をのむ大自然 巡り合った伊豆の土地

 菜未子さんは花屋を自ら経営し、基さんは外資系の医療機器メーカーに勤めていた。子ども3人を学校や保育園に通わせながら、庭付きの一軒家を購入。子どもたちの食事にはオーガニック食材を出したり、おもちゃも木製のものに触れさせたりと、都会にいながらも「自然派」な生活を意識しながら子育てする日々だった。

 名古屋を離れることなど考えもしなかったが、マリンスポーツが好きな家族は、海を望む別荘がほしいと考えていた。伊豆の国市に住む友人を訪ねたついでに、良い物件はないかと探しに来たときのこと。一家は目の前に広がる景色に息をのんだ。

 雄大な南アルプスの山々が…

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