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 数にまさる敵陣に突っ込むのは勇気がいる。ましてや四囲が敵ばかりの陣中に一石を投じるのは、相当な度胸と成算がなければなしえない。第49期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第4局。挑戦者が大海に落とした一滴は波紋を広げ、大海原を席巻した。

写真・図版
一力遼挑戦者=2024年10月11日午後2時47分、大阪府守口市のホテル アゴーラ大阪守口、北野新太撮影

 芝野虎丸名人(24)と挑戦者の一力遼棋聖(27)。両者の棋風は対照的だ。実利より戦いに有利な勢力を重んじ、相手を戦いに引きずり込む攻め主体の名人。着実に陣地を占め、あとから相手陣を荒らしにいくシノギ主体の挑戦者。ともに絶対の自信があるから「あなたはあなた、私は私」とわが道をゆき、どこかで挑戦者が名人の待ち構える戦場に飛び込むことになる。本局はいつにも増して両者の棋風にエッジがかかり、究極の攻めとシノギの戦型になった。

 図1 碁は隅→辺→中央という順番で、効率的に陣地を囲えるところから石が配置されていく。この段階で隅と辺はほぼ打ち終え、確かな陣地の広さでは挑戦者がまさっている。しかし名人には上辺から中央に広がる大模様という財産がある。

 模様とは、そのままでは陣地とはいえないが、手つかずのままだと巨大な陣地と化す大風呂敷だ。名人とてこれが全部陣地とは思っていない。相手の突入を待って、猛攻を仕掛けてポイントを奪おうとしているのだ。

 挑戦者も名人の意図は承知の…

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