こわもてのバイオリニストとして知られるが、本当の人気の理由は、実直な内面と、それがにじみ出るような演奏にあるのだろう。オーケストラや、ジャンルの垣根を越えるアンサンブルなどで幅広く活動する石田泰尚さんに、自身を形作った「みっつ」を尋ねた。
石田泰尚さんの「みっつ」
①マーラーの交響曲 ②バイオリン ③家族
《弦楽アンサンブル「石田組」をはじめとするユニットや、ソロでの活動に加え、神奈川フィルハーモニー管弦楽団では首席ソロ・コンサートマスターの重責を担う。どんなに忙しくともオーケストラ奏者を続けるのは、ある音楽のとりこになっているからだという》
マーラーの交響曲の全てが好きです。神奈川フィルでも(特別客演コンサートマスターを務める)京都市交響楽団でも、定期演奏会が全てマーラーでも良いくらい。じゃあどこが好きかと聞かれると答えに困るんですけどね。
僕が最初にマーラーの交響曲を弾いたのは、大学を卒業して間もない頃の、新星日本交響楽団のヨーロッパ公演だったと思います。第5番をやったんですね。でもその時はまだ、今ほどの思い入れはなかったように思います。やっていくうちに、気づいたら好きになったんです。
自分の演奏した中で過去最高のマーラーというと、2004年を思い出します。若杉弘さんが指揮する神奈川フィルで、僕は初めて第1番「巨人」を演奏しました。クライマックスを弾いている時にもう本当に……。「巨人」はそれから何度も演奏していますが、唯一その時は、ちょっとやばかったです。
マーラーは壮大で、編成も大きく、弾いていて高揚します。聴いていても「たまんねーな」と。かと思えば、例えば第4番第2楽章では、コンマスが通常よりも長2度高く調弦したバイオリンを使い分ける、ちょっと面白い部分もあったりして、どうしても惹(ひ)かれるのです。
《バイオリンを始めたのは3…