現場へ! クマ対策の最前線(2)
ツキノワグマによる農作物被害を減らして、人身被害を防ぎたい住民側と、クマを保護する立場にあった行政や大学側――。盛岡市猪去(いさり)地区でクマが大量出没した2006年、両者の立場の違いが不協和音を生んだ。
「状況を変えたのは、当時の市農政課の職員や岩手大の学生だった」と、同大の山本信次教授(56)は振り返る。
市職員たちは昼夜を問わず対応にあたり、地元と話し合いを重ね、大学や行政側との橋渡しをした。山本教授は「そこで『クマの生態保全』と地元が求める『集落の安全』という異なる目的が、里山の整備や電気柵の設置をしてクマを里に出さないことで、達成できることが共有された」と語る。
こうして07年、地元と官学協同の取り組みが始まり、岩手大の学生は授業の一環で参加することになった。
1回目のとき、地元の参加者は8人だったが、学生たちは大型バスで参加したという。地元の人たちは奮い立ち、大勢が参加するようになった。今では年3回の草刈りが地域の恒例行事だ。
山本さんは学生たちに「我々は学ばせていただいている立場だ」と言い聞かせてきた。学生は住民と一緒に作業し、現地の苦悩を肌で感じた。やがて、学生たちは授業の一環ではなく、岩手大学ツキノワグマ研究会(以下クマ研)の活動としてより自主的に関わるようになったという。
前自治会長でリンゴ専業農家…