2019年の米映画「ジョーカー」の続編「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」が公開中だ。社会的弱者の男性が「悪のカリスマ」になる過程を描いた前作は米国内外で話題をさらった。5年を経て生まれた新作は、どのように見られているのか。
記事後半では、日本でも公開された「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」が米国内でどのように受け止められているか、在米の映画ジャーナリストが解説します。
「ジョーカー」は、人気アメコミ「バットマン」シリーズの悪役を描く。貧しい道化師の白人男性アーサーが社会の中で追い詰められた末に連続殺人犯ジョーカーへと変貌(へんぼう)し、一部の人々から熱狂的な支持を受ける、というストーリーだ。
映画興行サイト「ボックス・オフィス・モジョ」によると、米国では興行収入3億3500万ドル(約500億円)を記録。20年の米アカデミー賞では最多11部門にノミネートされ、主演のホアキン・フェニックスがアメコミ映画史上初の主演男優賞を受けた。
アメコミ人気があるとはいえ、悪役を主人公に据えた映画が、なぜ米国の人々の心を捉え、評価されたのか。
トランプ支持者と共通する心情
米国保守思想史に詳しいジャーナリストの会田弘継さんは、米国における中間層以下の白人の心情を巧みに描いたことが一因だとみている。
会田さんによると、米国では1980年代以降、格差の拡大、固定化が進んだ。有色人種への差別を巡る議論が少しずつ重ねられた一方で、貧困に悩む白人の救済はおざなりにされたという。
そうした流れのなか、2016年、ドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利。出口の見えない思いでいる中間層以下の白人たちが、「不法移民が雇用を奪う」と主張して移民排斥を訴えるトランプ氏であれば、「何かを変えてくれるかもしれないと期待した」ことが勝因の一つだと会田さんは指摘する。
トランプ氏が過半数の票を得た地域は、全米の国内総生産(GDP)に占める割合がわずか36%というデータもあり、中間層以下の人々が暮らす地域がトランプ氏を支持したことがうかがえるという。会田さんは、「そんな中間層以下の白人を象徴する存在が、『ジョーカー』におけるアーサーであり、ジョーカー支持者だ」と語る。
アーサーは同じ白人たちから…