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広がった「あれもこれも」のイライラを、最初の1点に集め直す=イラスト・中島美鈴

 「一般化のしすぎ」という思考のクセがあります。これは、ごく限られたひとつの出来事を根拠に、他のすべてのことにもあてはめてしまうクセです。

 初対面でドアをバタンと大きな音で閉めて、息を切らしながら遅刻して現れた人がいたとしましょう。その人とまた待ち合わせる機会があれば、ほとんどの方が「あの人、また遅刻してくるかもな」とか「あの人はがさつだ」といった予測をするでしょう。

 本当のところその人の人間性の全体像まで知らなくても、そう見えてしまうのです。

  • コラム「上手に悩むとラクになる」

 この「一般化のしすぎ」は、ほとんどの場合は役に立ちます。第一印象は、なんだかんだ、その人の本質を象徴している場合が多いのです。

 なので第一印象からその人を予測すると、「あの人は遅刻しそうだから、ひまつぶしに本を持っていこう」とか、「雨風をしのげる場所で待ち合わせないと大変だ」などの対策が立てられます。

 このぐらいの予測が立たなければ、エネルギーを無駄遣いしてしまいますね。

 しかし、これが行き過ぎるとどうなるでしょう。過剰なイライラや不安、絶望を生む可能性があるのです。

 今回も注意欠如・多動症(ADHD)の主婦リョウさんに登場していただき、「一般化のしすぎ」の悪い例と修正方法について解説していきます。

「一般化のしすぎ」が行き過ぎると…

 リョウさんは小学6年生の娘さんにイライラしています。

 娘さんは、朝学校に行く前に靴下を引き出しから取り出したら、引き出しをあけっぱなし。ポケットにハンカチを入れたまま洗濯に出すし、ダイニングテーブルで宿題をしたら、鉛筆や消しゴムを出しっぱなしにします。

 リョウさんはこういう時決まってこう言います。

 「あの子っていっつも出しっぱなし!」

 「いつも~だ」は典型的な「一般化のしすぎ」の構文です。

 他にも、次のようなバリエーションが考えられるでしょう。

 「あのときうまくいったから、次からもうまくいくはず」(一部の成功体験が忘れられないギャンブラーの思考)

 「あの人のこういうところが嫌いだから、もうやることなすこと全部嫌い」(その人のタイピング音すら嫌!)

 「ケアレスミスを指摘されてしまった。このぐらいのミスも防げない自分は社会のお荷物だ。いや、人間失格だ」(新入社員がやめるきっかけNo.1)

 「うつになったときは私も苦労したけど、ちゃんと薬を飲めば大丈夫になった。だからあなたも大丈夫」(言われた方はつらくてしょうがない)

 なぜ「一般化のしすぎ」は多発するのでしょう。

 私たちは感情的になると、「あの人嫌い!」「うまくいきたい!」「私ってだめ!」といった、感情に強くリンクした思考とその根拠となる事実にばかり焦点づけをしがちなのです。

 感情が高ぶっているときに「あの人のこと嫌い! 一方でこんないいところもあるよね」という人は、あまり見たことがないですよね。「嫌い!」の気持ちを後押しするかのように、「あそこも嫌い。ここも嫌い」と嫌いの陣地が広がっていくのです。その方が感情を爆発できて気持ちいいですよね。

 でもこれが行き過ぎると「もうあの人と同じ空間で同じ空気を吸うのも無理!」になって、仕事や何かの集まりを抜けざるを得なくなったりします。

 自分に「一般化のしすぎ」をしてしまうと、「こんなケアレスミスをいまだに繰り返す自分はここの会社じゃやっていけない。他のところでも通じるわけがない。仕事など続けられない。社会のお荷物になるぐらいなら自分は人間失格だ」といった、破滅的な思考に発展します。これは、これ以上自分がミスを指摘されて傷つきたくないという防衛反応から、あえて未来の予測を厳しめにすることが背景にありそうです。

自分の失敗、一般化しすぎると破滅的な思考に

 「一度うまくいったのだから、次からもうまくいきそう!」は過度な楽観で、「うまくいきたい!」という願望が強すぎて現実検討力が低下しているといえるでしょう。

 リョウさんのように身近な人に向くと「あの子っていっつもやりっぱなし! だらしない!」とイライラが高じてしまい、適切なしつけができなくなるかもしれません。

 案の定リョウさんは、先日、娘に怒鳴りました。

 リョウ「いっつもハンカチ入れっぱなしだし、引き出しはあけっぱなしで、なんでもかんでもやりっぱなしじゃない! これ以上ママの家事を増やさないでよ!」

 娘の方も2週間に一度ぐらいはハンカチをポケットに入れたまま洗濯機に入れてしまっているのは事実ですが、それを「いっつも」と言われてはたまりません。

 すぐに激しい口論に発展しました。

 リョウさんはどうすればよかったのでしょう。

 「一般化のしすぎ」思考を修正する方法を模索してみます。

 一般化のしすぎは、「バケツに張った水に一滴のインクが落ちて、落ちた一瞬にインクが全体に広がる」というイメージにたとえられます。一滴のインクがそのままとどまっていればいいのですが、広がることが問題なのですね。

水面に落としたインクを、広がらないようにするには?

 ですから、修正法としては、広がってしまったインクを、また元の一滴のところまで戻してあげるといいのです。

 リョウさんの場合でいえば、「今回はハンカチをポケットに入れたまま洗濯機に入れたことが問題」なので、ここで終えることなのです。

 ついつい「ほら、靴下の引き出しだってあけっぱなし!」と関連するものをくっつけて広げてしまいがちなのです。しかし、私の専門である認知行動療法の視点からみても、子どもに生活習慣を獲得させるための指示を出す際には、「一度に学習させる行動は、ひとつずつ」が原則なのです。

 ですから、あれもこれも関連するものを一緒にして怒鳴ってしまうのは非常に効率が悪いだけでなく、子どもにとっても「私はすべてだめなんだ」というメッセージを与えてしまうことになりかねないのです。それは避けたいところです。

 反省すれば気を引き締めて生活態度が一変するということも経験しているため、私たちはなかなか「冷静には」叱れません。感情に訴えれば、もちろん短期的に子どもの習慣は改善するかもしれませんが、やがて気が緩めば元通りになることも私たちは知っています。

 もっと子どもの学習に効率的な方法で教育すべきでしょう。

 そうした観点からも、今日は「ハンカチをポケットから出す」行動について焦点づけて話し合いをします。また別の日に「宿題が終わったあとに鉛筆や消しゴムを所定の位置に戻す」行動について話し合います。靴下の引き出し問題も同様です。

 いかがでしょうか。

 あれもこれもまとめて勢いにまかせてしまうのではなく、「あれはあれ。これはこれ。」と捉えて、「今回はこのインクの一滴のみに注目しよう」と焦点づけるのです。

 もっと普段使いするには、「いっつもハンカチ入れっぱなしにしてるわけじゃないか」と自分にツッコミをいれるのです。「毎日365日じゃないか」「私が毎回100%の確率でケアレスミスしているわけじゃないか」「あの人が100%ぜーーんぶ悪い人間じゃないか(認めたくないけど)」「毎回うまくいくって誰が保証した?」このようなかんじでしょうか。

 一般化のしすぎは経験の少ない若い人ほど陥りやすいと言われています。経験豊富なみなさまは、若い方が一般化のしすぎをするリョウさんのような言い方をしていないか、注意してみましょう。

〈臨床心理士・中島美鈴〉

 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。

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 このコラムでご紹介した考え方のクセについてもっと知りたい方は、著者の本「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門」(光文社新書)もどうぞ。(臨床心理士・中島美鈴)

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