若者に性の情報を届けたり、専門家が相談にのったりする「ユースクリニック」。埼玉県内でも、医師や助産師ら専門家の団体が、大学や自治体と協力して実施している。性の情報提供を定めた県条例も制定され、広がりが期待されている。
10月下旬の週末、越谷市の県立大学で開かれた「清透祭」で、ユースクリニックの催しがあった。看護学科の教員らが企画し、学生ら有志でつくるサークル「LUNA」が協力して開催した。
LUNAは、2022年から学内10カ所にある女子トイレの20の個室に無料の月経(生理)用ナプキンを設置している。23年5月にサークルとしての活動を開始。毎週月曜に使われた分のナプキンを補充し、利用状況を記録している。23年は1万7789枚が利用されたという。
こうした活動や「性と生殖に関する健康と権利」(SRHR)について地域の人たちにも知ってもらおうと、ユースクリニックを企画した。
会場には、子宮内避妊具などのコンドーム以外の避妊法や月経用の吸水ショーツ、デートDVに関するポスターなどが展示された。カードケースに飾りをつけてコンドームケースを作るワークショップも開いた。希望者は、看護学科の学生が実習で使っている器具を使ってコンドームの装着も体験できたという。
LUNA代表の高岡ももさん(21)は、「自分の体や性のことを自分で決められ、守れるようになることが、豊かな生活につながる」と話す。
会場で、高岡さんから説明を受けていた白岡市の女子中学生(13)は、「何も知らずに、突然赤ちゃんができたりすると怖い。避妊の知識などを学んでおくことは大切だと思う」と話した。
相談コーナーでは、県立大学の教員や同窓生、一般社団法人「彩の国思春期研究会東部支部」の専門家が、個別に相談を受け付けた。
08年6月に発足した彩の国思春期研究会には、産婦人科医、助産師、薬剤師、養護教諭など約80人が参加している。23年5月から、自治体のイベントなどを機に、30回以上、県内各地でユースクリニックを開いてきた。
今秋にも川越市で2回、子育て支援施設「すくすくかわごえ」でユースクリニックを実施した。市も後援して市内の小中高校でチラシを配り、会場も無償で提供した。ただ、予算はついておらず、「本格的な開催は難しい」(市の担当者)のが現状だという。
一方、今後期待されるのは、県議会で10月に成立した「県こども・若者基本条例」に基づく県による取り組みだ。
条例には、県は「特に性に関する問題について、こども・若者がその年齢及び発達の程度に応じて、情報提供、助言その他の必要な支援を受けることができるよう体制を整備するものとする」と定められているからだ。
県は現在、助産師による中高校や大学への出前講座や電話相談「プレコンセプションケア相談センター埼玉(ぷれたま)」を実施している。ただ、ユースクリニックも含め、条例制定による新規事業はまだ検討中だという。
産婦人科医で埼玉医科大学の高橋幸子助教は、「学校の性教育だけでは足りない。子どもたちが安心できる環境で、知識や相談にたどりつける場が必要だ」と指摘している。(杉原里美)