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記者の質問に答えるモハメド・アブニマーさん=2024年5月16日午後2時17分、京都市下京区、西崎啓太朗撮影

 京都の地下鉄の駅で托鉢(たくはつ)僧とすれ違った。街角の喫茶店にも僧侶がいた。この街には宗教が身近にある。

 2023年5月に京都で働き始め、24年4月から半年間、宗教の取材を担当した。情報が寄せられるのは宗教専門の記者クラブ「京都宗教記者会」だ。

 JR京都駅に近い西本願寺と東本願寺にあり、新聞記者だった司馬遼太郎も1948年ごろから約5年間、在籍した。西本願寺の記者室の片隅には、司馬が寝転んで読書をしたというソファが残っている。

 この宗教記者会に4月、米国の大学教授のモハメド・アブニマーさん(62)を取材できるという案内が届いた。イスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ地区などで平和構築に取り組み、庭野平和賞を受賞した。

 5月、京都市内のホテルで話を聞いた。イスラム教徒でパレスチナ人のアブニマーさんは、自身の生い立ちが平和の追求につながっているという。

 イスラエル北部で生まれ育ち、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地のエルサレムにある大学に進んだ。力を入れたのはユダヤ人とアラブ人の対話だ。最初は敵対していた参加者も、数日もすれば友好関係を築いた。

 「対話によって相手への恐怖や不安の気持ちは変えられる。人と人の壁を壊せる」

 イスラム教は赦(ゆる)しと和解を説く宗教だという理念に基づき、宗教間の対話による紛争解決を試みてきた。89年に渡米。北アイルランドやスリランカ、フィリピンなどで紛争解決を進めた。

 2023年10月からガザ地区で続く戦闘では、大量虐殺などを正当化している人もいるという。たとえば、イスラエルの右派政治家、イスラエルを支持する米国のキリスト教福音派の信仰者、イスラム組織ハマスのメンバーらだ。

 「宗教と戦争を切り離し、宗教指導者こそ平和を擁護する必要がある」

 アブニマーさんの話を聞き、宗教のもつ両面性を考えた。宗教には人の心を根底から動かす力があり、平和の起点にも、戦争の起点にもなるのかもしれない。

 自らの信仰を見つめ、他者の信仰も敬意をもって認め合う。その積み重ねの先に平和はあるのかもしれない。(京都総局・西崎啓太朗、2021年入社、京都府政担当)

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