バリアーをなくすのは誰か⑥ 美学者・伊藤亜紗さん
吃音(きつおん)がある人は幼児の10人に1人、大人の100人に1人いるといわれます。コミュニケーションにおける「問題」としてとらえがちですが、身体について研究する美学者、伊藤亜紗さんは吃音を再解釈し、その可能性を探ろうとしています。吃音へのネガティブな見方、人の感性に潜む差別を変えていくには。
――吃音をどのようにとらえていますか。
吃音はうまくしゃべれないこと、つまり言語やコミュニケーションの問題とされることが多いですが、うまくいかない、思い通りにならない身体だから体験できることや見えるものを知りたい、という思いが私にはあります。○○障害という分類では見えないものがあるけれど、違う角度から見ると、可能性を感じることもあるからです。
吃音の当事者や家族でつくる「言友会」が、吃音とともに生きることを宣言した「吃音者宣言」(1976年)や、障害者の社会運動、障害の社会モデルなど、障害としての吃音をどうとらえるかというアプローチはもちろん、大事な意味をもっています。私はそうした視点とは別に、身体論の視点から吃音という現象がその人にとってどのような意味を持つのかを考えています。
――身体を通じて吃音を見るとは。
私自身にも吃音があり、吃音の人やほかの障害や病を持つ人について研究しています。たとえば、パーキンソン病は歩く時の最初の一歩が出てこないということがありますが、吃音の中で、最初の音を発しにくい「難発」に近いと感じます。パーキンソン病の人は、横断歩道など一定の間隔である物をまたぐと歩きやすい、吃音の人はリズムに合わせて歌うと吃音が出づらいなど、環境によって軽減できることがある点も似ています。吃音特有のことだととらえないで、共通点を見つけていく。そうすることで、障害という分類にとらわれることなく、吃音とのつきあい方を考えていくことができるのではないかと思います。
――吃音でうまくしゃべれない、身体が思い通りにならないといったことと、どう向きあっていますか。
「障害を前向きに」でない視点からみえるもの
私は、思い通りにならないこ…