Smiley face

 「無料貸本屋」とも出版界から言われてきた図書館は、本当に書籍市場の苦境に追い打ちをかけているのか。実態を精緻(せいち)なデータ分析によって明らかにした学術書が注目を集めている。著者の大場博幸・日本大教授(図書館情報学)は「出版界と図書館の対立を超えた議論の起点になれば」と話す。

 4月に刊行された「日本の公立図書館の所蔵 価値・中立性・書籍市場との関係」(樹村房)。20年来の研究成果をまとめたもので、利用者需要にどのくらい沿っているか、排除され優先される要素は、意見対立のあるテーマの本の扱われ方は、など幅広い。

 中でも関心が高いのが、昨年6月に論文が発表された「書籍市場との関係」。公立図書館は1970年代から90年代、利用者満足を重視して本を貸し出す試みが広がった。リクエストが多い本は複数そろえる、複本と呼ばれるサービスも進んだ。一方、書籍市場は96年をピークに後退(出版科学研究所調べ)。ほどなく起きたのが2000年代初めの「無料貸本屋論争」だった。

 図書館界には複本の購入抑制の動きも現れ、日本図書館協会などは調査を実施して過度の複本購入を否定した。だが出版業界の不満はくすぶり続け、10年代以降も複数のしにせ出版社社長の発言が話題に。

 大場さんの研究は「議論の応酬に客観的データを持ち込む必要がある」との考えから始まったものだ。書籍タイトルごとの需要、主題、出版社の規模、書評の数、価格など複数要因を考慮し、公立図書館の平均的な所蔵傾向について統計解析を試みた。これまで難しかった書籍の販売データも業者から入手したという。

 19年4~5月の新刊書籍6…

共有