連載「はにわのフシギ」
日本で最も有名な埴輪(はにわ)といえば、おそらく「踊る埴輪」だろう。大小2体あり、大型が高さ64センチ、小型は61センチ。ポカンとあいた目と口に、左手をあげて右手をさげたユーモラスな姿で、所蔵先の東京国立博物館(東博)では「踊る人々」と呼ばれている。同館で開催中の特別展「はにわ」(朝日新聞社など主催)でも人気が高いが、実はこの埴輪、現在の学界では「踊っていない」とみる説が有力だ。
2体の埴輪は1930年3月、埼玉県北部にある小原村(現・熊谷市)で開墾作業中、刀や勾玉(まがたま)、武人・農夫・馬などの埴輪と一緒に出土した。現地は全長約40メートルの前方後円墳だったようだ。
小型の埴輪には顔の両サイドで髪を束ねる「美豆良(みずら)」と呼ばれる男性の髪形の表現があり、腰の帯に鎌を差す。一方、大型の埴輪にはそのような特徴がないため、こちらは長らく女性とされてきた。
ユーモラスな表情や形などから、多くの人に親しまれている古代の土製品・埴輪。そのなぞや不思議を紹介します。
二つの埴輪は、発見の2年後に東京帝室博物館(現在の東博)に買い取られる。この埴輪に「踊る」という表現を使い始めたのは、同館の鑑査官を務めた考古学者、後藤守一だったようだ。1931年に出版された「埴輪集成図鑑」での記述が初出とみられる。
以来、踊るという表現が定着…