ご飯を中心に、汁やおかずが並ぶ日本型の食事で、おいしさの土台のような役割を果たしてきたのが、素材のうま味や香りを液体に移した「だし」です。和食の財産ともいえる存在を、次の世代にどう伝えて生かしてもらうか。その取り組みを探ります。(長沢美津子)
11月24日は、「いいにほんしょく」と読ませて「和食の日」。2013年12月、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのをきっかけに生まれ、各地で和食に親しむための関連イベントが行われるようになった。
推進役の民間団体「和食文化国民会議」は「だしで味わう和食の日」と呼びかける。全国の小中学校や保育所などに、給食で「だし」を使った和食の献立を組むことをすすめ、教室で「だし」を含めた和食について話ができるように配布用の資料を用意する。
1年を通して出前授業も行っているが、11月に国民会議の副会長で料理研究家の後藤加寿子さんが講師役を務めたのが、鹿児島県の日置市立美山小学校だった。
京都出身の後藤さんは、京都で家庭のおかずを「おまわり」と呼ぶことから、ご飯を中心に、汁やおかずの皿がまわりに並ぶ食卓が和食の基本的な姿だと話を始める。
続く味覚の体験では、子どもたち全員の前に塩昆布、梅干し、こんぺい糖、カカオ分の高いチョコレート、そして昆布だし。それぞれどんな味がするかを言葉にする。「酸っぱい」「苦い」と迷いのなかった子どもたちが、昆布だしには、首をかしげる。
「海?」「魚っぽいかな」
後藤さんが「うま味。うまい味です」と伝える。昆布はうま味の成分を多く含み、いま飲んだのは、その成分を液体にうつした「だし」だと説明は続いた。
小学校のある美山地区は薩摩焼の里で、そのルーツは朝鮮半島にある。今回の授業では、料理家のジョン・キョンファさんが韓国の食文化を紹介。「韓国でだれもが食べているワカメのスープは、鶏や牛など肉からだしをとる。材料はちがっても同じだしです」と話し、「だし」への理解を深めた。
国民会議の常務理事、神尾敬さんによると、出前授業で「一番だし」を子どもたちに飲んでもらうと「おかわり」の列ができ、その様子を見て大人の方が驚くのだという。
「幼いころに本物のだしを知ることは、和食の文化に関心をもつ入り口になってくれます」と後藤さんは話す。