鹿児島県の北部にある人口約2万3千人の伊佐市。国道沿いにあった市内唯一の書店「TSUTAYA伊佐店」が閉店したのは、昨年5月のことだった。
「仕事帰りに寄るのが楽しみだった。いつもお客さんがいると思っていたが……」。郷土史の資料館で働く原田純一さん(75)は嘆く。店では、新書や歴史小説を手に取っていた。今は息子に頼んでネット注文することが多いという。「私は必要な本をそろえたが、若い人は(書店での)本との出会いがないとかわいそう」
活字離れやネット書店の広がりなどを受け、書店は減り続けている。日本出版インフラセンターによると、2014年6月に全国で1万5274軒あった書店は今年6月までの10年で1万667軒まで減った。
出版文化産業振興財団によると、今年8月現在、伊佐市のような「無書店自治体」は全国の27.9%に上る。取次会社に口座を持ち、実店舗がある新刊書店を対象に調査した。
伊佐市内では約20年前、商店街にあった地元の書店が閉店した。17日投開票の市長選でも書店がないことが話題になった。再選された橋本欣也市長(60)は、「書店がないのは寂しい」といった市民の声を受け、「図書館に本の販売コーナーを併設することを構想中」と取材に話した。
創業100年、物価高のたび遠のく客足
市民に話を聞くと、「不便になった」という声がある一方、近くの自治体で買い物した際に書店に立ち寄るという人や、ネットで購入するので影響はないという人も少なくなかった。
車で30分離れた隣の湧水町には創業100年以上の「西書店」がある。代表の西征宏さん(52)は4代目だ。ただ、ここも厳しさに直面する。
子どものころは山積みの少年雑誌が発売初日に売り切れるのを目にした。だが、今は西さんの子どもたちも漫画や本より動画を楽しむ。
現在の客層の中心は高齢者。入り口近くには運転免許更新時の認知機能検査の対策本を並べる。パズル雑誌なども人気だが、食品やガソリン代の値上げのたび、客足が遠のくのを感じる。
経営を支えるのは役場や病院…