スギ花粉症の症状をコメで和らげる。20年あまり前に始まった研究が、実用化へ動き出した。
茨城県つくば市の約11アールの水田で、今年産のコメ約440キロが9月5日、収穫された。水田は農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の敷地内にある。辺りにほかに水田はなく、塀とネットで囲まれた隔離された環境だ。
栽培を担当した若佐雄也上級研究員(48)は「高温の日が多かったが、虫の発生も少なかった。心配した台風の影響もほとんどなく、順調に育った」と話す。
このコメは、キタアケという品種のイネの遺伝子を組み換えて作った「スギ花粉米」だ。
花粉症は、体に入ってきた花粉成分に免疫が過剰反応して起きるアレルギー症状だ。スギ花粉米は、コメの中に改変した花粉成分(スギ花粉アレルゲン)の一部を作り、その有効成分を継続的に摂取することで症状を抑えると考えられている。
農研機構で開発が始まったのは2000年。03年には今年収穫したものと同様のスギ花粉米が実った。当初は食品として流通させることを目指していたが、治療効果への期待から、医薬品開発を念頭にマウスを使った動物実験などを重ねた。
13~18年には、農研機構と共同研究をしていた東京慈恵会医科大(東京都港区)が、少数の被験者にスギ花粉米を食べてもらう方法で、人に対する有効性を確かめる臨床研究を進めた。
この研究で、くしゃみの回数や薬の使用量の減少、「今日は楽」といった主観的な症状の改善などが確認された。
しかし、そこで足踏みした。農林水産省によると、当時まだアレルゲンを使った花粉症への免疫療法が一般的でなかった点などが背景にあったという。農研機構の古澤軌(ただし)・作物ゲノム編集研究領域長(59)は「臨床研究は少人数が対象で治療効果として明確ではなく、遺伝子組み換え作物を医薬品の原料とする前例もなかった」と説明する。
転機となったのは昨年5月。花粉症に関する関係閣僚会議で、各省庁の縦割りを排して従来の取り組みの促進を確認する中、農水省所管のスギ花粉米について、実用化に向けた臨床研究などの実施が決まった。
農水省内に設けられた官民連携検討会は今年6月の中間とりまとめで、スギ花粉米から有効成分を抽出した粉末を薬剤として利用し、花粉症の根治が期待できる治療薬の実用化を目指すこととした。
スギ花粉症向けの従来の医薬…