罪を犯して刑務所に入った受刑者が被害者の気持ちを知った時、変化は生まれるのか。
24年前、娘を殺された父は今年6月、刑務所を訪れた。新たな制度を使って、無期懲役で服役中の男に自身の心情を伝えるためだ。
犯罪被害者や遺族の気持ちを加害者に伝える「心情等伝達制度」が始まって、12月で1年がたちました。ある殺人事件の被害者の父親の、この1年に迫ります。
横浜市に住む渡辺保さん(76)はかつて法廷で投げつけられた言葉に今も向き合い続けている。
2000年10月16日、会社員だった長女の美保さん(当時22)が自宅近くの路上で殺害された。約3年後、長女の同級生だった男が出頭した。だが、刑事裁判では否認し続けた。
一審で無期懲役が言い渡された直後、退廷する男の背に、渡辺さんはたまらず言った。
「お前を絶対に許さない!」
男は振り返って言った。
「お前が迎えに行かなかったから、娘は死んだんだよ」
07年、最高裁が男の上告を棄却し、無期懲役の判決が確定した。最後まで男が罪を認めることはなかった。
更生の見込みは4段階中「最低評価」
昨年12月、受刑者の更生のために、矯正施設の職員を通じて被害者やその家族の心情を伝えられる制度が始まった。
当初、裁判で男の態度に絶望していた渡辺さんは、「どうせ何を言っても無駄。自分には関係ない」と考えていた。
半年に一度、刑務所から届く書類でも、男の更生の見込みは4段階中最低の評価で、受刑態度も5段階中下から2番目だったからだ。
それでも今年4月、利用の手続きを始めた。同じ犯罪被害者遺族の知人が制度を利用したところ、音沙汰もなかった受刑者が、賠償を支払う手続きをしたい、謝罪の手紙を送りたいとの意思を示したと聞いたからだった。
「あいつはきっと変わらないだろうけど、それでも伝えてみよう」
普段、犯罪被害者らの支援活…