妊娠の経過は取り扱わないものとする――。中学校の保健体育の学習指導要領のいわゆる「はどめ規定」だ。教育現場で「セックスは教えてはならないもの」と解釈され、性教育に積極的に取り組まない一因とされる。そんななか、産婦人科医らが学校に出向いて講演し「はどめ規定」を乗り越える動きが各地でみられる。模索する現場を訪ねた。
「男性と女性が愛し合って、男性の固くなったペニスが膣(ちつ)に入る。たった一匹の精子が卵子と出会って受精卵になり、妊娠が成立します」
今年2月、福島県郡山市の市立三穂田中学校の教室で、産婦人科医の桜井秀さん(56)が2年生の男女17人に語りかけた。
桜井さんは続いてコンドームの使い方や、低用量ピルが避妊や月経痛の緩和に役立つことを紹介。「マスターベーションは何回やっても大丈夫」「包茎のままだと不潔になったり勃起時に痛みが生じたりするので、自分の手でケアして」と男子生徒の悩みに寄り添った情報も伝えた。いずれも普段の授業ではなかなか扱われない内容だ。
この性教育講座は、市内すべての公立・私立中学28校を対象に医師を講師として派遣する郡山医師会の主催事業。桜井さんが中心になり2013年に始めた。地元女子大で非常勤講師を務めた際、学生が「膣外射精で避妊できる」と思い込んでいるなど性の知識が乏しいことに危機感を抱いたことがきっかけだった。今は桜井さんを含む医師4人が各校を回っている。
- 性教育は「外部講師頼み」でいいのか 学校現場が向き合う
市内の養護教諭の女性は「学校でセックスについて教えなくても、ネットでは過激なアダルト情報や間違った性の知識が氾濫(はんらん)している。医師が『はどめ規定』にとらわれず教えてくれてありがたい」と話す。
福島市も17年度から産婦人科医1人に中学校で講演してもらっており、「来年度からは生徒が在学中に必ず聴講できる態勢をつくりたい」という。東北の他の県庁所在地でいうと、青森、盛岡、仙台、山形各市は全市での取り組みはなく、学校側の判断で医師や助産師らを派遣してもらうことがあるという。
全県的に取り組むのが秋田県だ。10代の人工妊娠中絶の実施率が全国平均を大きく上回ることに危機感を募らせた県教育委員会が、00年から産婦人科医を県内の高校に派遣する事業を開始。05年からは対象を中学校にも広げた。講師の負担を減らすため県産婦人科医会がマニュアルや教材をつくり、今は小児科医や泌尿器科医、内科医も講師を担う。
「望まぬ妊娠」減らす効果
「望まない妊娠」を避けるた…