関東地方の地方都市。駅から、入り組んだ路地を歩いて数分。登下校時は子どもたちが行き交う。空き家もあるが、それほど寂れた住宅地ではない。
この地区にあるアパートの一室で、2024年2月、男性が「孤独死」した。79歳だった。
亡くなっているのを見つけたのは、近くにある男性の実家で暮らす、おい(55)だった。「本家」筋にあたる。
男性は、本家が所有するアパートの一室を借り、妻と暮らしていた。妻は2年ほど前に死去。子どもはいなかった。
おいによると、その前夜、男性の部屋は電気がつかなかった。郵便受けを見ると、新聞がたまっていた。
おいがかぎをあけて入った。布団の上に、「大の字」で横たわっている男性が見える。近づいて顔をのぞき込む。目があいていた。体にさわってみる。かたくて動かない。
救急車を呼び、警察にも電話を入れた。
妻を亡くしたのがよほど寂しかったのか、火葬場から持ち帰った妻の骨が、そのまま部屋に置いてあった。
警察が調べると、壁に小さい穴が開いていた。頭に傷もあるという。倒れたときにぶつけたのか。「事件性はないと思いますが」。遺体は解剖に回す、と告げられた。おいは、「怪しまれている感じがした」と苦笑いする。
病死とみられるという解剖の結果は、翌日には伝えられたと記憶している。
耳が遠いぐらいで、特に持病もない男性は、毎日のように歩いて出かけていた。とはいえ、近所のスーパーぐらいしか、行くところはなかったようだった。
火葬したのち、男性の遺骨は、妻の骨とともに、近くのお寺に最近整備された共同墓地に納められた。「結果として、一緒になれたのはよかったのかも」とおいは言う。
ただ、それで一段落、とはいかなかった。
むしろ、おいが恐れていた事態が、現実になった。
相続だ。
「うちの本家は、地方の『プチ地主』なんですよ」
先送りしていた遺産分割協議
亡くなった男性は、4人兄弟のうちの一人だ。4兄弟の父親は1990年に亡くなり、本家の不動産は、一部は4兄弟が相続したものの、大半は4兄弟の母親が所有していた。母親が所有していたのは、宅地が5筆と、今回の孤独死があったアパートの建物。地方都市とはいえ、駅から歩いて数分の住宅街にある。固定資産の証明書によると、土地5筆の評価額は合計で1億円はくだらない。
その母親が百余歳で亡くなっ…