霜降り全盛の時代に、食肉卸「東京宝山」社長の荻澤紀子さん(46)が主に扱うのは、生産数が少ない赤身の牛のお肉です。なぜ赤身の牛なのか、凄腕のこだわりを取材しました。
牛愛が強い。「人々の口に入るまで、モテモテの牛にしたい」
和牛の98%が黒毛
東京宝山は、和牛のなかでも、霜降りが多い「A5」や「A4」の肉が取れる黒毛ではなく、赤身が多い短角やジャージー種、経産牛などを主に扱う。毎月約10頭分の牛肉をレストランやスーパーに卸す。設立から10年、1千頭分近くを販売してきた。
農林水産省などによると、食肉になる和牛は黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4品種と、それらの交雑種を指す。日本で飼育されている牛380万頭の半数近くが和牛で、その98%超が黒毛だ。
牛肉には格付け規格があり、肉が多く取れる方からA~C、霜降りの度合いや肉・脂肪の色つやなどを5~1で評価している。今は霜降りが多く入るA5の人気が高い。和牛去勢(オス)の場合、7割近くを占め、A4を合わせると9割を超える。
もともと食べることが好きだった。大学生のとき、世界の食事情を描いたルポ「もの食う人びと」(辺見庸著)を読み、経済学のゼミで飢餓をテーマに学んだ。
2001年に卒業したが、就職氷河期のど真ん中。食にかかわりたいと、焼き肉チェーン店や飲食店、モツ焼き店などで働きながら、自分が一番やりたい仕事を探した。
岩手県内の牧場が直営する焼き肉店に勤め、初めて牛肉の販売の営業を任された。熱意を買われ、その牧場を含めて岩手、山形県内の5牧場が営む飼料会社の東京事務所で牛肉販売の営業を担ったとき、転機が訪れた。
赤身牛のうまみ
「現場を知らないとダメだ」と牧場を見学し、牛のつぶらな瞳に心を射抜かれた。「かわいい!」。この牛たちの肉を大切にして、幅広い消費者に届けたい。15年に東京宝山として事業を引き継ぎ、独立した。
牛は食肉として出荷できるま…