全身の筋肉が徐々に衰える難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を引き起こす新たなメカニズムを、岡山大学脳神経内科学の山下徹准教授と石浦浩之教授らの共同研究グループが突き止めた。たんぱく質の品質を維持管理する遺伝子の機能が失われると運動神経細胞がダメージを受け、血縁者に患者がいる家族性ALSが引き起こされることが分かった。新たな治療法の開発も期待されるという。
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ALSは筋肉を動かし、運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が変性・減少する病気。脳から「手足を動かせ」といった命令が伝わらなくなって筋肉がやせていき、呼吸も十分できなくなる。
国内の患者は1万人以上いるとされ、約1割は家族にも患者がいることから家族性ALSと呼ばれている。
研究グループは、家族性ALSの患者3人の遺伝子を解析。その結果、3人とも、「DNAJC7」と呼ばれる遺伝子に変異があることがわかった。この遺伝子には、傷んだたんぱく質を修復したり、異常なたんぱく質がたまらないようにしたりする働きがあるという。
また、ALSは「TDP―43」というたんぱく質が、大脳皮質の神経細胞の細胞質に異常に蓄積することが多くの症例で確認されており、今回の患者も同じようにTDP―43が蓄積するなどしていたという。
培養した細胞などで確認したところ、DNAJC7が機能しない状況ではALSの指標であるTDP―43をうまく片付けられず異常凝集が増加し、DNAJC7の働きを強めると異常凝集が改善したという。
岡山大学の山下徹准教授は「DNAJC7遺伝子がうまく動かないとTDP-43の異常凝集が増加し、家族性ALSを引き起こすことが今回わかった。DNAJC7を強く発現させると異常凝集が改善したことから、将来的な治療にもつながる新知見が得られた」と話している。
今回の研究成果は7月1日、国際科学誌「Acta Neuropathologica」に掲載される。