医療分野でおなじみのCTスキャンが、生物学の研究でも広く使われるようになってきた。骨だけでなく筋肉や内臓も観察する技術ができたのに加え、コンピューターの画像処理能力が急速に進歩したことが背景にある。
左右に分かれた大脳。首から尾の先まで伸びる脊髄(せきずい)。腹部の大部分を占める肝臓。CTスキャンで作ったマウス胎児の立体モデルでは、体内でどこに何が入っているのか、一目で分かる。
国立遺伝学研究所(静岡県三島市)が撮影した。コンピューターでカーソルを動かすと、回転させたり拡大したりしながら、好きなところを観察できる。
研究所が撮影したのはマウスだけではない。魚や昆虫のほか、ウニなど海の無脊椎(せきつい)動物、アサガオなどの植物まで。
魚の浮袋はどう進化したか、カブトムシのオスの角はいつどんなふうに伸びてくるのか……。研究者が立体構造を観察し、論文を書いてきた。
作業したのは技術専門職員の前野哲輝(あきてる)さん(55)だ。
2012年ごろから、CTスキャンでの生きものの撮影に取り組み始めた。筋肉や内臓など、体内の構造を詳しく観察できると知ったからだ。磁気共鳴断層撮影(MRI)でも見られるが、CTスキャンはもっと解像度が高い。「血管や心臓内部の凹凸が、1千分の1ミリ単位で見える。ブレークスルーだ」
同僚らから受け取った試料を撮影し、画像データを提供する。ただ、1回の撮影で数千枚にもなる画像をそのまま渡しても、「お蔵入り」になることがよくあった。なじみがないので扱いに困ってしまうらしい。どうしたら論文に使ってもらえるか。
考えたあげく、データを加工して立体構造がわかる動画にまとめ、提供するようにした。必要なところで再生を一時停止して静止画にすれば、そのまま論文に使える。時間は長くても数分。長すぎると見てもらえないからだ。
臓器ごとに色を変えて表示で…