欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会は1日、欧州警察機構(ユーロポール)や加盟国の法執行機関が、暗号通信を合法的に解読できるよう検討することなどを盛り込んだ域内の安全保障戦略を発表した。暗号通信は犯罪の温床と指摘される一方、「シグナル」や「テレグラム」など広く使われているアプリによる通信も対象となるため、プライバシー侵害の恐れもある。
この日発表された戦略は、ロシアの脅威やテロから加盟国を守るため、法執行機関の捜査能力の拡充などが提案された。
欧州委は「強力な組織犯罪が欧州で急増し、オンラインが温床になっている」と指摘。現在行われている犯罪捜査のうち約85%は、捜査機関がデジタル情報にアクセスできるかが鍵になっているという。
特に暗号化された通信は秘匿性や機密性が高く、捜査で解読することが難しい。このため、捜査機関による察知を避けようとする犯罪集団によっても用いられている。
ただ一般的に使われているアプリの通信も暗号化されている。犯罪と無関係の通信まで捜査機関が解読できるようになると、プライバシーが侵害される恐れがある。欧州委のビルクネン副委員長は「基本的権利の保護は常に優先事項」としつつ、「暗号通信などの先端技術で法執行機関は後れを取っている」とし、新たな措置が必要との認識を示した。
戦略ではほかに、国家の不安定化を狙ったハイブリッド攻撃になり得る海底ケーブルの切断を未然に防ぐため、北大西洋条約機構(NATO)などと協力した監視拠点を提案。切断事例が相次ぐバルト海を手始めに、域内の海域に広げていくという。