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クロスマートの寺田佳史社長=2025年4月11日午後2時47分、東京都中央区、寺沢知海撮影
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 FAXが主流だった飲食業界を、ITで変えようとしている起業家がいる。「もっと業務を効率化できれば、工場は残ったのではないか」。原動力は、祖父の会社の廃業を目の当たりにした悔しさだ。

 「ラガー生たる 15リットル」「コカ・コーラ(瓶)」

 首都圏を中心に約4千の飲食店と取引がある柴田屋酒店(東京・中野)。毎日夜、飲食店が発注した食材がデータ化され、通話アプリ「ライン」で続々と届く。今では普通になった受注作業だが、少し前は全く違っていた。

 飲食店からの食材の発注の多くは営業終了後の夜。連日、深夜から未明にかけて届く1千枚以上の注文のほとんどがFAXだった。文字を判別するのが困難な手書きの注文も少なくなく、1枚1枚処理する作業に追われていた。留守電話に「いつもの日本酒」とだけ残す居酒屋の店主もいた。注文の間違いは日常茶飯事だった。

 この状況を大きく変えたのが、スタートアップ企業の「クロスマート」(東京・中央)の受発注サービス「クロスオーダー」だ。請求書や納品書の発行をライン上のやり取りで完結。サービスの利用料金は卸業者にのみ請求されるため、飲食店はコストの負担なく導入できる。

 柴田屋酒店は4年前に導入。取引のある飲食店にサービスの利用を呼びかけ、約2500店が応じた。注文記録がデジタルで残るため、間違いは激減。深夜対応の従業員を減らすこともでき、負担は大幅に軽くなった。柴泰宏社長は「業界で最もデジタル化が遅れていた業務だった。もう前のやり方には戻れない」と話す。

 クロスマートはサイバーエージェント出身の寺田佳史氏(40)が18年7月に起業した。きっかけになったのは、家業の行き詰まりだった。

 実家は東京・門前仲町で瓶ラムネを作るメーカーだった。祖父のもとで働いていた父親の口癖は「もうからない」。子どもの頃、遊び場でもあった工業は10年以上前に廃業。跡地にはマンションが建った。会社を救う方法があったのではないか――。人手不足、長時間労働、デジタル化の遅れなど、肌で感じていた飲食業界の構造的な課題に答えを求めた。「ビジネスチャンスがあり、自分が貢献できる」と起業に踏み切り、「徹底的な合理化」を目指した。

 特に注目したのは、飲食店と…

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