記者会見を開き、頭を下げる辰野町教育委員会の宮沢和徳・教育長(右)=2025年4月16日、長野県辰野町役場、佐藤仁彦撮影

 長野県辰野町教育委員会は16日、学童クラブで働いていたLGBTQ(性的少数者)の学童支援員が昨年、町教委の職員から性的指向に関する発言を制限されるなどし、退職する事案があったことを明らかにした。

 事実関係を調査した町の顧問弁護士は調査報告書で「職員の言動は、きめ細やかな心配りが欠けていたもので不適切な対応であった」と指摘した。

 退職したのは伊東麗奈さん(20)。伊東さんや町教委によると、伊東さんは男性にも女性にも魅力を感じるバイセクシュアル(両性愛者)であることを以前から公表し、音楽活動を続けている。昨年春、それを明かした上で学童支援員として町教委に採用され、同5月から町内の学童クラブで働き始めた。

 調査報告書などによると、伊東さんは、LGBTの当事者らしき子どもから「僕は○○君のことが好き。これはいいの」と相談され「ありのままに誰かを好きになることは何も悪くないよ」と答えた。

 この出来事を教育委員会の職員に伝えたところ、「勤務時間外にやってくれ」と言われた。さらに「子どもたちの前でLGBTの話はするな」「子どもたちにLGBTはない」などと言われた。

 また伊東さんが「私は男の人も女の人も好きになれるよ」と言っているところを目撃した職員に呼び出され「自分のことをさらけ出すな」と叱責(しっせき)されるなどした。伊東さんは昨年12月に退職した。

 報告書は、町教委の性的少数者に対する理解が「形式的な理解にとどまっている」と指摘。伊東さんが個人的に出演する音楽活動の宣伝をしていると誤解し「伊東さんの心と人格を深く傷つけた」と判断した。

 一方で、故意的な言動ではないことや伊東さんが職員の処分を求めていないことから「行政上の処分は必要ない」と結論づけた。

 この日、記者会見した宮沢和徳・教育長は「職員は、性的少数者の問題を頭では理解していたが、性的少数者の傷つきやすい部分について、思いが至らず、伊東さんに悲しい思いをさせてしまった」などと述べ、謝罪したい意向を明らかにした。

 伊東さんはこの日の記者会見の様子を傍聴した。最後に自ら発言を求めて「調査内容に納得はいっていない。職員たちは性的少数者のことを頭でも理解できていなかったのが本当ではないか。それを認めるところから、反省や改善は始まるのだと思う」と述べた。

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