Smiley face

 東京工業大と東京医科歯科大が統合し、10月1日に誕生する東京科学大。世界をめざす志の一方、近年の国立大を巡る事情が、統合の背景にある。

  • 「第2東大」構想経て誕生の東京科学大 勝ち組2校統合でめざす未来
  • 【そもそも解説】学生減って経営合理化 進む国立大統合、「傘式」も

 世界最高峰の研究力をめざす上で、最大の強みは理工系と医歯系のタッグだ。すでに芽吹き始めた研究もある。

 統合を目前に控えた9月20日。都心にある東京医科歯科大の研究室で、子どもや障害者の歯科治療に携わる大石敦之助教(43)がビーカーの中を見つめていた。「プラズマバブル水」と呼ばれる液体が、歯の根(根管)の洗浄に使えるかを確かめる実験が進む。

 「プラズマの泡がぶくぶくしている水の中で、ラジカルが発生している。この水が、歯の治療法を変えるかもしれません」

写真・図版
東京工業大の沖野晃俊准教授(右)と、東京医科歯科大の大石敦之助教(中央)らのチームが研究を始めた「プラズマバブル水」の実験の様子=9月20日、東京都文京区

 ふだん治療で使われる次亜塩素酸ナトリウムは、殺菌力が強い半面、肌に触れればただれることもある。より安全な殺菌方法を調べていたところ、東京工業大のプラズマ研究に行きあたった。

 昨年2月に開かれた2大学の研究発表会で、プラズマ研究を紹介した東工大の沖野晃俊准教授(58)に大石さんが協力を持ちかけた。固体、液体、気体に次ぐ「物質の第4の状態」といわれるプラズマの中でも、従来より低温なプラズマを、複数のガスで試せる技術が沖野さんの研究の特徴だ。

 沖野さんは「何かの役に立てば、くらいの思いで発表に来たが、子どもの歯科治療に使う方法は『おもしろそうだぞ』と。声をかけてもらえなければ、こんなニーズがあることも知らなかった」と言う。

 電圧をかけて低温プラズマ化させた酸素を水にぶくぶくと2分ほどくぐらせるだけで、オゾンなどのラジカルと呼ばれる殺菌作用をもつ物質が水中に生じる。このプラズマバブル水を使えば、虫歯や炎症を悪化させる細菌の増殖能力は壊すものの、人の細胞には影響をほとんど与えないと考えられている。しかも有効成分が働くのは数分間のみで、その後は普通の水に近づくのも特徴だ。

 今は細菌の増殖抑制効果の確認など基礎段階だが、将来は同じ施設で研究を進めたいと考える。大石さんは「歯科領域ではまだほとんどプラズマが試されていない。治療中に動いてしまいやすい子どもや障害のある人に、もっと安全な治療が届けられるかもしれない」と話す。

医工連携のスタートダッシュ

 こうした研究を含め、両大学は連携する37テーマに2022年以降、最大で100万円を助成。10月1日には「医療工学研究所」を新設し、25年度からは学生が両分野の講義を受けられるようにする「医歯理工融合教育プログラム」も始める。

 科学大初代学長(大学総括理事)に就く田中雄二郎さん(70)は「世界からも連携の打診がきている。東京科学大として医工連携でスタートダッシュを切ることが重要だ」と強調する。

 統合後にめざす姿は、米マサチューセッツ工科大(MIT)や、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のような世界トップ級の理系大学だ。

 ただハードルは高い…

共有