Smiley face
写真・図版
「シミュレーション」について、NHKはウェブサイトで「実録ドラマ」と紹介している

 日米開戦前に設立された首相直属の機関である総力戦研究所を題材にしたNHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」で、研究所長だった人物の遺族の男性が抗議している問題で、NHKの稲葉延雄会長は17日の定例会見で、「ドラマを面白くするために史実と異なる脚色をしたのではないかと指摘されても、致し方ない」との見解を示した。

 番組は、前後編を8月16、17日に放送。ドラマとドキュメンタリーの二つのパートで構成された。

 ドラマは、開戦前に総力戦研究所に集められた若手官僚らが、米国との交戦の推移を机上演習する。そして軍や内閣に対し、日本が必ず負けるという予測を突きつけるストーリーだった。

 ドラマの所長は、政権に「不都合な報告」を上げないように若手に圧力をかける人物として描かれたが、実在の所長だった陸軍中将・飯村穣氏の遺族であり孫の元駐仏大使・飯村豊さんは放送後に会見を開き、穣氏は若手の自由な議論を妨げなかったとし、「面白くするために祖父が卑劣な人間に描かれ、名誉を毀損(きそん)している」と抗議。放送倫理・番組向上機構(BPO)への申し立てを検討していると説明していた。

 今作はNHKを含む5社の共同制作で、脚本、編集、演出は映画監督の石井裕也さんが担当している。稲葉会長は「今回のような、様々な意見が出るような演出は、NHKらしくなかった」と言及。また一般論とした上で、「NHKが外部の制作会社などと共同制作する際には、その枠組み上、商業的側面が強調されることは起こりうる」とし、「制作方針が一致しないという事態になった際、NHKとして守るべき部分が難しいのであれば、共同制作とは、別の方法を選択すべきではないか」と述べた。

 また、この日のメディア総局長会見で、石井監督のコメントが、NHKの担当者によって読み上げられた。

 石井監督は「総力戦研究所内で描いたキャラクターは全員、原案書籍となったノンフィクションはもちろんのこと、残された資料や記録に基づいて創作しています。個人の人格や人間性を再現することがテーマではなく、当時の状況とそこに生きる人々の葛藤を伝えることが主眼の作品です。表現の理由と正当性についてはしかるべきタイミングでお話しすることになります」とした。

共有