日米開戦前に設立された首相直属の機関である総力戦研究所を題材にしたNHKのドラマについて、研究所長だった人物の遺族の男性が「人物の描き方に問題があった」と批判している。男性は26日に会見を開き、放送倫理・番組向上機構(BPO)への申し立てを検討していると説明した。
番組は、戦後80年に関連して制作したNHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」で、前後編を今月16、17日に放送した。日米開戦前に総力戦研究所に集められた若手官僚らが、米国との交戦の推移を机上演習する。そして開戦に向けて突き進む軍や内閣に対し、日本が必ず負けるという予測を突きつけるストーリーだ。
ドラマの所長は、政権に「不都合な報告」を上げないように若手に圧力をかける人物として描かれた。しかし、実在の所長だった陸軍中将・飯村穣氏の孫で元駐仏大使の飯村豊さんは、穣氏は若手の自由な議論を妨げなかったとし、「ドラマを面白くするために祖父が卑劣な人間に描かれ名誉を毀損(きそん)している。歴史の歪曲(わいきょく)だ」と主張した。
飯村さんはドラマ化を7月に把握しNHKに懸念を伝えたという。番組では史実を伝えるドキュメンタリーパートもあわせて放送され、所長が物語上の創作であり実在の所長とは関係がないことがテロップで明示された。ただ飯村さんは「小手先の対応に過ぎず、視聴者にはドラマが真実と伝わるのではないか。フィクションと断れば史実を曲げて伝えても許されるのか」と述べた。またNHKからはドラマを映画化する方針も聞いているとして、内容の修正を要望しているという。
NHKは朝日新聞の取材に、ドラマは「実在した総力戦研究所に着想を得たもの」で、所長はフィクションとして描いていると説明している。映画化については「現時点でお答えできることはありません」と答えた。