心の傷を表す「トラウマ(心的外傷)」やトラウマを負うことによって引き起こされる「PTSD(心的外傷後ストレス症)」という言葉をよく耳にするようになった。PTSDはその人の人生を生きにくくさせ、ときには破壊してしまうこともある。PTSDの治療法として有効性が実証されている認知処理療法(CPT)の開発者で、PTSD研究の世界的権威でもある米国人のパトリシア・リーシック博士(75)が来日したのを機に、トラウマの仕組みやどのように対応していけばいいのかを聞いた。

パトリシア・リーシックさん。2日間の研修は朝から夕方までで、ほぼ立ちっぱなしで講義した=東京都江東区、大久保真紀撮影

 日本で「トラウマ」という言葉が周知されるようになったのは、30年前に起こった阪神・淡路大震災がきっかけと言われる。最近では、虐待や性暴力などに遭い、心に深い傷を負ってPTSDに苦しむ人が多いことも知られるようになってきた。

 そもそもトラウマとはどういうものなのか。

 リーシックさんによると、衝撃的な出来事があると、人の脳は何が起きたのかを理解しようとする。脳はしばらく混乱するが、通常は徐々に情報を処理して回復していく。しかし、その過程で自分が悪くないのに「自分が悪かった」というような負の感情が出るなど、情報処理がうまくいかないことがある。

 そうなると、フラッシュバックや悪夢などの侵入症状、イライラやビクビク、集中困難といった覚醒レベルや反応の変化、自責の念や罪悪感、うつ、負の感情などの思考や気分への悪影響、ひきこもったり特定の場所や人を避けたりする回避行動、といった症状が表れる。

 こうした状態から回復できないのがPTSDだ。さらには、頭痛、不眠などの身体症状、攻撃的な行動や自己破壊的な過激な行動などが出てくることもある。

虐待や性暴力の被害者の多くがPTSDに苦しみ、最近では元日本兵が抱えた戦争トラウマについても子どもや孫の世代の人たちが語り始めています。トラウマは社会として避けて通れない問題です。しかし、日本ではトラウマに特化した専門治療を受けられるところは限られ、いまだに「忘れた方がいい」などと言う人も少なくありません。社会としてトラウマにどう向き合うかは喫緊の課題です。記事の後半では、リーシックさんに、そのヒントを語ってもらっています。

■「公正世界の信念」がキー…

共有
Exit mobile version