アイドルがチャンスをつかむきっかけは各人各様だ。
23人グループ「僕が見たかった青空(僕青)」の岩本理瑚(17)にとって、それはTBS系テレビ番組「SASUKE」への出演だった。
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2023年8月にデビューした僕青は、翌年1月発売の2枚目シングルから選抜制が導入された。岩本は選抜(青空組)以外の11人で構成される雲組に。そして、雲組に与えられた楽曲で、岩本のポジションは一番後ろの3列目だった。
「本当に自信がなくなってしまいました」
デビュー時は「強み」を持っていると思っていた。中学時代はソフトテニスの東京都大会の団体戦で春夏4連覇。器械体操を6年習っており、バック宙を披露するなど運動には自信があった。
だが、23人の中に入ると埋もれていくように感じた。3、4枚目のシングルの選抜発表当日は「絶対に無理だとわかっていた」から緊張しなかった。ふがいなくて、発表前日に母の前で思いきり泣いた。
「自分は何をしているんだろうというか……。僕青のためにどうやって貢献できるんだろうと悩んでいた時期」と振り返る。
昨年9月ごろだった。SASUKE本選への出場をかけた「アイドル予選会」のオファーが届いた。本番までの約1カ月間を、ただがむしゃらに突っ走ると決めた。
「このチャンスを逃したら、私は一生このままだなって。ここで人生を変えるんだっていう気持ちだけでした」
自分でトレーニングメニューを考え、毎日体をいじめ抜いた。腕立て伏せ2種類を20回ずつ2セットや上体起こし、懸垂……。夜の公園で雲組のメンバーも練習に付き合ってくれた。「もう頑張るしかない、その一心」
迎えたアイドル予選会本番。岩本はシャトルランで1位に輝くなど最終種目を前にトップと5点差の総合2位。総合優勝者に与えられる本選出場への切符に手が届く位置にいた。最終種目はハードルくぐり、平均台渡り、そして番組名物の「そり立つ壁」の縮小版で構成されたタイムレース。岩本は平均台で落下して失格になった。最終順位は6位。悔し涙がこぼれた。
予選会には「FRUITS ZIPPER」や「AKB48」、「私立恵比寿中学」など、広く知られているグループのメンバーが参加した。だが、会場にいたアイドルファンには、出場者で最年少の「岩本理瑚」という名が確かに刻まれた。
「最初に私が紹介されたときは全然拍手がなくて、私のことなんてほとんど知らないだろうなって。でも、競技が進むにつれて私の名前を呼ぶ声が多くなっていることに気付きました」
後日、番組側は、当初は想定していなかった敢闘賞に岩本を選び、SASUKE本選への出場権も。関連番組の「KUNOICHI」と「HANZO」への出演も果たした。
そして、8月6日に発売される6枚目シングルで岩本は青空組に初めて選ばれた。雲組で培ったパフォーマンスの向上はもちろん、番組での奮闘が認められたからこその結果だろう。
「もう一度初心に戻って一生懸命無我夢中に頑張りたいし、僕青に新しい風を吹かせられる存在になりたい」
番組がつけたキャッチコピーがある。
「ひたむきアクロバットアイドル」
ある競技に詳しい、または特定のスポーツチームの熱烈なファンで知名度を上げるアイドルはこれまでもいた。岩本は自分の体一つで駆け上がっていく希少な存在になるかもしれない。
「普通のアイドルではやらないだろうということをしていきたい。それが自分のため、僕青のためになると思うので」
改めて「強み」を見つけた17歳はひたむきに走り続ける。