社会科教員のサミュエル・パティさんが殺害されてから1年後の2021年10月15日、フランス南部ニースで行われた追悼式典でパティさんの写真を掲げる子どもたち=ロイター

 フランスで2020年に中学校の教員が殺害されたテロ事件は、ひとりの少女のうそがきっかけだった。そのうそを信じ、正義感に駆られて教員を批判する動画をSNSで拡散した人物は、テロの共犯に問えるのか。そんな争点の刑事裁判で、パリの裁判所が判決を下した。テロがなくならないフランス社会の現実がにじむ結末だった。

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 パリ中心部のシテ島に立つ裁判所で昨年12月20日夜に開かれた特別法廷の判決公判。裁判長が起訴された8人の被告全員に有罪を言い渡すと、傍聴席では前方に座っていた被告の家族らが声を上げて泣き始めた。対抗して拍手する人や泣いている被告の関係者に腹を立てて非難する人もいて、法廷は混乱に陥った。

 この日の法廷で判決を迎えたのは、社会科教員サミュエル・パティさん(当時47)が20年10月16日、勤務先だったパリ近郊の中学校近くで、面識のなかったロシア南部チェチェン共和国出身の難民の男(当時18)に殺害された事件だった。

 男は事件直後に警察に射殺されたが、テロの動機は、「表現の自由」をテーマにした授業でイスラム教の預言者の風刺画を題材にしたパティさんへの怒りだったとされる。その後の調べや裁判で、2人に面識はなく、男はSNS上の動画を見てパティさんを知ったことが明らかになった。

生徒の父親が拡散した動画

 テロへの共犯や関与の罪に問…

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