「STAP(スタップ)細胞はあります」

 10年前の4月9日、理化学研究所の研究者はこう述べた。英科学誌ネイチャーに発表した論文の捏造(ねつぞう)が認定されたことに対し、会見で細胞の存在を主張したのだった。その後、論文は撤回された。研究不正に対する注目は集まったが、改善策には結びつかなかった。そう言い切るお茶の水女子大の白楽ロックビル名誉教授は、海外の研究不正事例を調べて情報発信し続けてきた。

お茶の水女子大の白楽ロックビル名誉教授=東京都中央区

――研究不正の発覚が続いています。

 研究不正とされるデータの「捏造」、「改ざん」、他人の文章の「盗用」について、大学や研究所が発表したものを私が集計すると、2010年代前半は10件前後、14年から20件以上、21年は45件と増えています。これは氷山の一角だと思います。

――研究不正が減らないのはなぜですか。

 コツコツ研究しても成果はなかなか出ない。不正をしたほうが、楽で得だからです。論文を出版しないと研究費は得られず、昇進もできず、肩身が狭い。大学院生は論文を出版しないと博士号を取得できない。就職できない。行き詰まってストレスが高まります。

 そこで、研究不正をしたのは、プレシャーが高かったためとか、研究費が欲しかった、職が欲しかったという人がいるかもしれませんが、そのまま受け取るわけにはいきません。それは、自分は悪くない、環境が悪いんだという言い訳です。同じ環境で苦しくても、不正をしない人はしません。

 ずるをしても見つかる確率が低い。簡単に論文を掲載してくれる学術誌はたくさんあるので、論文数を増やすために、ちょっとずるをする。味をしめて、どんどん似たような不正を続けたとみられるケースがあります。

――不正をしても見つかる率が低いと。

 社会が研究不正に無関心で、野放しになっています。一つ目、二つ目の論文で共同研究者やまわりの人が気づいて注意をすればいいのに注意しない。研究不正を続けても告発しない。日本では告発するハードルが高い。

 海外には、ボランティアで研究不正疑惑を指摘する人たちがいます。そういう人たちが日本の論文の疑義を「PubPeer」などのウェブサイトで指摘し、同時に、学術誌と日本の大学に告発する。日本の大学は、無視できなくなって調査する。あるいは盗用された被害者が告発することもあります。

――告発があれば、大学は調査することになっています。

 日本の調査は甘すぎる。そもそも所属している教員を大学が調査して罰する仕組み自体に限界がある。大学は基本的に不正と認定したくない。不正と認定すれば研究費を返す必要が出てきたり、大学の評判は落ち、入学志望者は減ったりするかもしれないですから。

 調査する人は大学教員で、調査の専門家でないことが多く、調査に関してはほぼ素人集団です。

 大学は告発を受けても、予備…

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