デビュー作が「タワマン文学」として話題になった麻布競馬場さん。2作目の「令和元年の人生ゲーム」(文芸春秋)は直木賞の候補になり、選考会では賛否を二分し、惜しくも次点で受賞を逃した。小説を通して「人を幸せにするために傷つけるという、倒錯をやってきた」と語る。
ビジネスコンテストを運営する「意識高い系サークル」の大学生、母親からの無償の愛に苦しむ女性、老舗銭湯の活性化に奔走する「カルチャー感度の高い」会社員。平成28~令和5年を生きる、いわゆる「Z世代」の登場人物に共通するのは、進むべき人生の方向が見えない閉塞(へいそく)感だ。
「平成的価値観と令和的価値観の移り変わりの話」と自作を分析する。その「令和的価値観」でキーワードとなるのが「正しさ」だ。大学生向けシェアハウスを描いた第3話では、ある異様な正義がコミュニティーを染め上げた結果、ホラーな展開が繰り広げられる。
着想の源は、コロナ禍を経て社会が再始動した頃に目の当たりにした、若者のありようの変化だ。「パッと家のドアを開けたらいきなり『Z世代』が目の前にいたのが、自分の恐怖体験としてある」。過去の「ゆとり世代」「しらけ世代」とは違って肯定的な自称としても使われる「Z世代」のまとう連帯感に、「何か一つのものに溶け合ってしまう怖さ」を感じたという。
ときに危うさをはらむ画一的…