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戦争体験者の話を聞くZORN(右)=NHK提供
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 戦後80年。日本国内で戦争を直接体験した人は少なくなった。しかし、世界に目を向ければ、ウクライナやガザなど、戦火はいまも続いている。

 18日放送のNHKスペシャル「戦火の時代(いま)に紡ぐ歌 PASS THE MIC」(総合・夜10時45分)は、日本を代表するラッパーのZORNとZeebraがそれぞれ戦争と向き合い、曲を制作。その舞台裏と葛藤を追った。ヒップホップと戦争――。異色の組み合わせはなぜ生まれたのか。

 企画を発案したのは、池田泰洋プロデューサー。紅白歌合戦や「シブヤノオト」「SONGS」など、NHKの音楽番組を手がけてきた。局内きってのヒップホップ好きでもあり、KOHH(現・千葉雄喜)のドキュメンタリーなども制作してきた。

 きっかけは、戦時下の劇場で活躍した故・明日待子(あしたまつこ)さんを描いたドラマ「アイドル」(2022年)。池田さんはこの戦時下の劇場シーンもステージの演出をした。エンタメと公共的テーマを掛け合わせる発想の可能性を感じた。

 「王道の戦争証言などのドキュメンタリーは社会的意義が大きいと感じていますが、若い世代はきっと見ないだろうとも思った。ヒップホップは声なき者の声をすくい上げる音楽で社会性がある。戦争を語ることができると考えました」

 ZORNとZeebraは日本屈指のラッパーではあるが、なにゆえ白羽の矢が立ったのか。

 「ZORNさんは出身地であり、現在も暮らす東京都葛飾区に根ざし、自分の内面に誠実に向き合い、刺さる言葉(パンチライン)を生み出しています。Zeebraさんはヒップホップグループ『キングギドラ』で社会派ラップを切り開いた。最近もいじめ撲滅プロジェクト、慶応大での授業など、まさにヒップホップ・アクティビストとして活動している。2人ともテーマに真正面から向き合ってくれると確信しました」

 ZORNは、80年前の東京大空襲、Zeebraはウクライナやガザのラッパーと共に現代の戦争に向き合い、それぞれ約半年をかけて楽曲を制作した。

 池田さんの胸に残ったのは、ZORNが出会った戦争孤児の女性の言葉だ。「『想像できないでしょ』『経験しないとなかなか近づけない』と、優しい口調で言われました。その一言は、企画の根底を揺さぶりました」

 Zeebraも、試練に直面する。

 当初はイスラエルとパレスチナ、ウクライナとロシアのラッパーとのマイクリレーを模索したが、実現はしなかった。

 制作統括の内山拓さんはこう話す。「2人は同じプロジェクトでも直接の接点がないまま進む。でも、無関心であることや分かっていたつもりのおごり……。そういう境地に近づき、歌詞に落とし込んでくれた。制作陣の想像を超えてシンクロしていきました」

 Zeebraは、ウクライナのTNMKとはポーランドで、ガザのGHUとは日本でレコーディングした。

 テーマは「戦争によって奪われたもの」。故郷、感情、表現の自由――。奪われた戦地の現実を歌詞に込める。

 番組の終盤、2人は楽曲を披露する。

 音楽的にも見どころがある。

 ZORNの楽曲には、2010年に亡くなったトラックメイカーNujabes(ヌジャベス)さんの代表曲「reflection eternal」を使用する。

 水野さんはこう話す。「Nujabesさんは生前、平和への思いを持って活動していました。第三者への使用許可が下りるのは極めて異例で。ご遺族の理解も得て、使えることになりました。Nujabesさんのトラックにのせて、ZORNさんがラップすることは、ヒップホップ界の大きな出来事になると思います」

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