Smiley face
認知症が進む母親(手前)を介護していた1990年代の藤原瑠美さん
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それぞれの最終楽章 認知症の家族をみとる(2)

スウェーデン福祉研究者 藤原瑠美さん

 1990年春、当時82歳で認知症の母は、東京都の大田区社会福祉協議会(社協)の在宅介護サービスを利用し始めた。つまり日本に介護保険が導入される10年以上前から、私たち親子は公的な支援に頼ったことになる。介護保険が使えたのは亡くなる直前の半年間だった。

 当初は、私が毎朝出勤して自宅に誰もいなくなると、母は大声を上げて泣いた。私が家を出てから「協力会員」と呼ばれる有償ボランティアの主婦がわが家に到着するまでの約1時間は母だけになるのだ。母にはそのころ一人でベッドに寝てもらっていた。明治生まれの気丈な母の泣き声が聞こえると、まだ事情を知らない近所の人たちは驚き、塀の外に並んで様子をうかがったと聞く。

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 また、母は初めて対面する新任の協力会員を「怖い」と泣いたこともあった。会社で仕事をする私が頃合いをみて家へ電話をかけると突然、受話器の向こうから、とてつもなく大きな母の泣き声が聞こえてきて、私のデスクがある事務室中に響き渡った。この時の協力会員は、母の大号泣にショックを受けて辞めてしまったそうだ。

 しばらくすると母も慣れ、介…

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