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作家の樋口明雄さん。自然に囲まれた山梨県北杜市の自宅前で

フォーラム 地方移住を考える②

 都会から自然豊かな地方へ移住して、スローライフを送る。そんな夢を抱いたことはありませんか。著書「田舎暮らし毒本」で自身の移住経験をつづった作家の樋口明雄さんは、「夢は結局、夢だったね」と話します。地方移住の理想と現実、そして樋口さんが移住先で見いだした田舎暮らしの「価値」を聞きました。

都会の煩わしさから逃れたい

 ――なぜ移住しようと思ったのですか。

 「東京から山梨県北杜市に移住したのは25年前。都会暮らしの人間関係の煩わしさから逃れたいという理由が大きかったね。30代後半で、今ならまだ動けるという気持ちがあった」

 「本当に嫌なことがあって、そういうことがあると周りが冷たく感じるんだよ。孤立感があって、透明人間になったような気がして。だれもいないなら、田舎の方がいいと思った」

 ――様々な地方があるなかで、北杜市を選んだ理由はなんですか?

 「移住する前にどんなところで暮らしたいか考えるよね。俺の場合は、まず周りが山、森に囲まれている。人里から少し離れていて、川もあって、公害や騒音とは無縁な場所がよかった。すぐに釣りにいけるとか、星空がきれいとか、薪ストーブがたけるとか」

 ――自然のなかで暮らしたいと。

 「そう。東京に住んでいた頃にアウトドア趣味に目覚めたんだよ。神奈川県の西丹沢によく行って、1週間くらい山にこもることもあった。いまではできないけれど、たき火をしながら、お酒をちびちび飲んで、流れ星を見ているわけよ。ああ幸せだなあ。こんなことが毎日できたらと思って」

 「たき火場で常連のオヤジとくだらない山の話なんかもして。泊まっていた避難小屋の傍らには沢があって、ヤマメが泳いでいて。知り合いに釣りの手ほどきを受けてね。釣れたときは本当にうれしかった。仕事の傍らでしていたんだけれど、もう一つの自分の人生を見つけたような感覚だった」

 ――ほかに移住先の条件はあったのですか。

 「電気が通っていて水があり、車で行ける範囲でいいので食料品店があること。それから、母も一緒に暮らすので総合病院も。当時はまだ子どもはいなかったけれど、小中学校があるかどうかも確認したよ」

夢に描いた田舎暮らしはできたのか

 ――理想の場所はすぐに見つかったのですか。

 「不動産屋にいろいろな場所…

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