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東海大相模の金本貫汰
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夏に咲く①東海大相模 金本貫汰一塁手

 東海大相模の金本貫汰(3年)は、高校通算で30本塁打以上を放っている。その中でも、特別な一本がある。

 「あそこまで飛んだことはない。自分のものじゃない感じ」

 昨夏の神奈川大会決勝。ライバル横浜との大一番で、金本は2年生ながら4番打者を担った。

 1点を追う五回1死走者なし。マウンドには、当時1年生の織田翔希がいた。カウント1ボール。「自信のあるまっすぐでストライクを取りに来る」。ベルト付近の高さに来た狙い球を、金本は振り抜いた。

 バットの真芯でとらえると、手には感触が残らないものだ。この時がそうだった。左打席から思い切り引っ張った打球は飛びに飛び、横浜スタジアムの右翼ウィング席に弾んだ。

 一時同点のソロアーチは、「最後まで何が起こるかわからない」展開を予感させた。東海大相模は2点を追う八回に一挙4得点で逆転し、5年ぶりの優勝を果たした。

 いざ2015年以来の全国制覇を狙った甲子園は8強止まり。金本ら現3年生は誰一人、土を持って帰らなかった。「思い出を作りに行ったんじゃなくて、勝ちに行ったので」

 甲子園で先発した野手の半数が残った新チームの前評判は高かった。だが、秋の関東大会で初戦敗退。一方で横浜は明治神宮大会を制し、公式戦無敗のまま今春の選抜大会でも優勝した。

 東海大相模は昨秋、今春とも県大会決勝で横浜に敗れた。秋は2―5、春は延長戦で4―5。金本はライバルを「日本一のレベル」と認めた上で、現状を「わかりやすくなった」とも捉える。

 「1番大きい相手が県内にいるというのは、意識しやすい。そこで終わりじゃないけれど、横浜を倒せば日本一が見えてくる。『打倒・横浜』っていうのは意識したい」

 兵庫県出身。50メートル走6・0秒の俊足と強打を併せ持つ。中学は15歳以下の日本代表に選ばれた。選手同士で厳しく指摘し合う東海大相模の練習を見学して、「ここでなら、日本一を全力でとりにいける」と親元を離れての進学を決めた。

 毎晩、寮のそばの駐車場で素振りをする日課がある。いつも同じ情景を思い浮かべながら。

 横浜スタジアムを埋める3万人超の観衆、太陽の光が反射する真緑の人工芝――。夏の神奈川大会決勝、対戦相手はもちろん、甲子園の春夏連覇をめざす横浜だ。

 「自分は打つことを求められて試合に出ている。誰よりもやる」

 最後の夏。持てる以上の力が引き出されたあの舞台で、再びライバルから、打つ。

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