白衣に白い帽子をかぶり、人形焼きの型を黙々とひっくり返す。「父」と聞くと、山口ひとみさん(51)は、そんな後ろ姿を思い出す。
ひとみさんの父、丸山俊雄さんは2020年まで60年近く、東京都豊島区の商店街で「人形焼まるやま」を営んだ。閉店から4年後、同じ地で長女のひとみさんがカフェ「丸茶庵(まるちゃあん)」を開いた。8月1日で1年になる。
あんこパフェに、あんバスクチーズケーキ、あんガトーショコラ……。メニューにはあんこを使ったスイーツが並ぶ。
実は、ひとみさんは甘いものが苦手だ。特にあんこは「甘ったるくて、大嫌い」だった。父には言わなかったけれど。
焼き型を握ると「鬼になった」
父は、ずっしりと重い鉄製の焼き型で、毎日、人形焼きを作った。中学卒業と同時に新潟から上京。東京・浅草の老舗で修業し、1970年ごろに西武池袋線の椎名町駅近くに店を構えた。
朝は、父の炊くあんこの香りで目が覚めた。学校の友人に「ひとみちゃんはいつも甘いにおいがするね」と言われたこともある。
普段は「ひとみちゃんやー、ひとみちゃんやー」と3人きょうだいの末娘のひとみさんをかまい、とろけるほど優しかったが、焼き型を握ると「鬼になった」。
「生地がかたくなる」と外気…