最先端半導体の開発をめざす「ラピダス」が試作準備を終え、巨額の国費を投じる事業がスタートする。その目と鼻の先に、半世紀以上前の国策を引き継いだ「苫東(とまとう)」がある。時代の波に乗れず破綻(はたん)した大規模工業基地の経験を生かせるか、関係者に聞いた。
「世界最先端にこだわるものではない」と話す苫東の辻泰弘社長に対し、葛西誠也・北大総長補佐は「開発競争や製造の難しさを克服するには若者の力が不可欠だ」と人材育成の重要性を説いています。
「情勢見極め、柔軟な計画修正を」 辻泰弘・苫東社長
低迷が続いていた苫東の経営は東日本大震災の後、ソフトバンクなどのメガソーラー誘致を実現できたことが転機になった。工業用地の分譲販売が主な収入源だったが、メガソーラー用地の賃貸収入が毎年入るようになり、経営状況が安定した。
私が2度目の社長に就いた3年前に「GX戦略推進室」を設置してまもなく、道や札幌市がGX金融特区に選ばれたことやラピダス効果もあいまって、進出企業が順調に増えている。
進出企業の業種の幅が広がってきたのが大きい。医療機器や物流倉庫、醸造会社の進出まである。広大で平坦(へいたん)な土地があり、全道への陸送だけでなく苫小牧港と新千歳空港も使える物流の利点がある。
約1万700ヘクタールのうち分譲用地は5500ヘクタールで、その3割強が分譲か賃貸済みだ。分譲用地の中で造成済みの土地はかなり埋まりつつある。さらに誘致企業を増やすには計画的に造成する必要がある。当社設立の経緯から借り入れはできないので、造成資金を蓄えていかなければならない。
震災前までは、倒産した旧会社から引き継いだ資産を管理・運営するのが精いっぱいで、収益を増やす対策を打つのが難しい状況だった。新会社設立の際には北海道が巨額の負担を被るなど地元の痛手が大きかったことを忘れてはならない。
旧会社が失敗した原因のひとつは、時代に合わなくなった計画を修正する柔軟性に欠けていたことだ。石油化学コンビナートなど「重厚長大」産業の拠点づくりをめざした当初計画は、直後の石油危機などで時代遅れになってしまった。それに加えて「国頼み」で責任の所在をあいまいにし、ずるずると延命された。コスト軽視で赤字も膨らんでしまった。
こうしたことは、民間ベース…