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介護施設の職員らによる高齢者への虐待件数

 介護施設での高齢者らへの虐待が絶えない。東京都内の施設では6月、入所者に暴行したとして、元職員(30)が警視庁に逮捕される事件が起きた。元職員はマッチングアプリで採用された「日雇い」だった。背景には人手不足があり、施設の運営会社幹部は職員に教育が行き届かない現場の苦悩を明かした。(長妻昭明)

 「男性入所者の頭にあざがある」

 東京都内にある認知症グループホームの施設長は5月末、スタッフからこう報告を受けた。入所者約20人に対して、職員は15人ほど。室内のカメラ映像を確認すると、4日前の早朝、排泄(はいせつ)を介助している男性職員が高齢の男性入所者にたたかれる様子が映っていた。その直後、職員は男性の体を押し、頭をベッドの柵にぶつけていた。

 この男性職員は介護福祉士。職員は施設の聞き取りに、「過剰防衛だった。介護拒否され、いらいらしてやった」と話したという。施設は被害者に報告し、警視庁に被害届が出された。

 職員は6~7月に入所者2人に対する暴行容疑で2度逮捕され、その後、いずれも起訴された。9月12日にあった東京地裁での初公判で、職員は起訴内容を認めた。介護職は9年目だと明かし、「長年憧れてきた医療、介護業界には(今後)携わらない」と述べた。18日には「身勝手な犯行で介護職の信頼を害する」として、懲役10カ月執行猶予3年(求刑懲役10カ月)の有罪判決を言い渡された。

 この施設の運営会社によると、職員が施設で働くようになったのは今年3月。事件当日まで7回ほど夜勤に入り、当日も午後8時から翌朝5時まで1人で9人の入所者を担当していた。

逮捕された元職員、日雇い契約で面接や研修行わず

 職員は1日単位で雇用する、いわゆる「日雇い」の契約で、介護福祉士と施設を引き合わせるマッチングアプリを通じて応募し、採用されていた。資格証書と身分証をスマートフォンで読み込むだけで応募でき、面接や履歴書は不要だ。

 施設は採用後、最初の3日間だけ職員が付き添い、研修などはしていなかったという。

 人手不足が顕著になってきたのは2010年ごろから。入所希望者が増える一方で、介護職員の確保が難しくなり、社員だけでは国が定める配置基準を満たせなくなった。派遣社員に頼るようになったという。

 また、近年は、仕事のきつさ…

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