穏やかな海の水面が、きらきらと光る。
石川県珠洲市三崎町の海沿い。県立飯田高校野球部の新川純冬(にいかわじゅんと)さん(2年)が道すがら、口を開いた。
「学校からの帰り道、自転車を押しながら空を見上げると、星がきれいで、波の音がして。いいなって」
自宅の前に砂浜が広がる。暮らしとともにあったその海は、元日の能登半島地震で津波となり、自宅を全壊させた。
それでも6月、高校野球の取材に訪れた私(25)が何かを問う前に、新川さんの口からは被災のつらさではなく、地元への思いがにじむ言葉が次々こぼれた。
横浜で育った私は、空を見上げるより足元を気にしてきた。新川さんの言葉は新鮮だった。
思い出したのは、1月2日の能登の海だ。
新人記者として金沢総局に配属されて9カ月。元日の揺れの直後、マイカーに乗り込んで北へ向かった。
七尾市内で夜を明かして翌朝、珠洲市に向かって走り出し、息をのんだ。
青い海に朝もやがかかり、本当にきれいだった。
倒れた家屋が道路をふさぎ、目の前に地割れが続いているのに、いつまでも見ていたかった。
一方で怖さにも心が震えた。
土砂が崩れた脇を何カ所も通…