Smiley face
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両手を上げてフィニッシュテープに到達する筆者。56歳の心臓病患者をこんなに笑顔にさせるスポーツはそうそうないと思う=2024年7月15日午後7時11分、青森県弘前市、越川志津さん撮影

「痛みは意識から切り離せ!」

 7月14日午後3時に、青森県外ケ浜町三厩地区にある三厩体育館前をスタートした「第8回みちのく津軽ジャーニーラン」(スポーツエイド・ジャパン主催)の154キロの部。日付は翌15日に変わり、選手らは未明の道路をヘッドライトで照らして走っていた。

 私が、外ケ浜町蟹田地区にある四つ目のチェックポイント(CP)「ふるさと体験館」に到着したのは午前1時14分だった。

 ここは68・5キロ地点。10キロを1時間半で進むという想定通りのペースで来られた。しかし、数キロ前から右足裏の一部に激しい痛みが出ていた。

 このCPは午前4時まで閉鎖されないレストステーション(AS)でもある。数時間の睡眠をとったり、自分なりに足裏のケアをしたりすることも可能だった。

 しかし、夜が明けて気温が上昇し始める前に、ある程度の距離を稼いでおかないと、高温と多湿にやられて、29時間の制限以内にゴールできなくなると考え、痛み止めの錠剤を飲むだけで出発することにした。

 ほとんどの大会で現地に入って応援してくれる妻は今回、北海道に残り、ウェブ上にリアルタイムで更新される各選手のCPの通過状況を確認していた。

 その妻から、私のスマートフォンにメールが届いた。こんなやりとりだった。

 妻「ふるさと体験館、到着おつかれさまぁ~。順調なタイムで走っているね」

 私「右足裏に水ぶくれができたみたいで、激痛。痛み止めを飲みました。これから山越えです」

 妻「マジか!(アドベンチャーレーサーの)田中正人さんは『痛みは意識から切り離せ!』と言ってたよ~。楽しんでね~」

 確かに、この手の痛みに負けていてはゴールまで楽しめない。致命傷でなければ、きっと痛みは意識から消えるはずだ。

 それから間もなくのことだった。

 津軽半島の内陸へと向かう「やまなみライン(県道12号)」を走っている際に、不思議な体験をした。

「あなたは誰?」

 筆者は、山間部にある闇の長い上り坂で、本来は見えないはずのものが見えてしまいました。朝になって太陽が高く昇ると、今度は勝手に、うめき声や涙が出てきてしまいました。そんな筆者を救ってくれたのは……。

 北海道新幹線の高架をくぐる…

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