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有本明弘さん(左)と嘉代子さん夫妻=2016年2月、神戸市長田区、石塚大樹撮影
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 北朝鮮による拉致被害者の有本恵子さん(不明当時23)=神戸市出身=の父、有本明弘さんが15日、老衰のため96歳で亡くなった。他の拉致被害者や関係者からは有本さんを悼む声とともに、被害者家族の高齢化を念頭に政府に拉致問題の速やかな解決を求める声があがった。

 2002年に帰国した拉致被害者の曽我ひとみさん(65)は17日、勤務先の新潟県佐渡市を通じてコメントを出した。

 拉致被害者家族連絡会(家族会)での有本さんの活動に触れ、「(20年2月に亡くなった妻の)嘉代子さんと常に2人で行動し、時には強く抗議の声をあげることもありましたが、それほどまでに我が子との再会を待ちわびているという親心に深く感銘を受けたことを覚えています」としのんだ。

 ともに拉致された曽我さんの母親のミヨシさん(不明当時46)は、今も行方が分かっていない。曽我さんは「母と同年代の有本さんがお元気でいる姿に、どれだけ私の心が救われてきたか言葉にできません」とし、「どれだけのことができるか分かりませんが、拉致被害者救出のため全力で取り組んでいこうと思っています」と決意を記した。

 拉致被害者の蓮池薫さんも同日、地元・新潟県柏崎市の記者クラブを通じてコメントを発表。「娘さんに一目会いたいという思いをとうとう果たすことができませんでした。どれだけ無念で悔しかったことでしょう」としたうえで、「被害者を返さない北朝鮮への憤りと事態を打開できない日本政府へのもどかしさが一層増すばかりです。明弘さんの思いを果たすためにも新たな次元の運動が求められます」などと結んだ。 

 02年に帰国した福井県小浜市の地村保志さん(69)、富貴恵さん(69)夫妻も「本当に残念でなりません」などのコメントを市を通して出した。

 保志さんはこれまでの講演で、拉致問題は、被害者も、その家族も、高齢化で時限的な問題になっていると繰り返し指摘していた。コメントでも「被害者の家族は高齢化が進み、親世代でご健在なのは、横田めぐみさんの母・早紀江さんだけとなった。親世代が存命のうちに拉致問題が早期に解決されますことを心より願ってやみません」と訴えた。

 拉致被害者の市川修一さんの兄、市川健一さん(79)=鹿児島県鹿屋市=は「高齢になりながらも娘のために一生懸命闘っておられた有本さんの姿が忘れられない。誠実でしっかりと意見を言われる方だった。娘に会えないまま亡くなったのは残念だったと思う。(拉致問題は)もう時間がないと政府に訴え続けてきたが、(有本さんの死去は)やるせないし、憤りを感じる」と話した。

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