【自民党の杉田水脈・前衆院議員の発言】
「(法務局から)人権侵犯の認定は受けておりません。啓発を行って執行を猶予するということが書かれた文書をいただいているので、人権侵犯認定されたのは違うということを、法務省の方から確認しています。報道各社の方々が人権侵犯認定を受けたとおっしゃるのは誤りであるということを、ここで改めて申し上げたいと思います」
(3月9日の自民党大会後、記者団に対して)
自民党が今夏の参院選での公認を発表した杉田水脈(みお)・前衆院議員が、9日の党大会後、記者団に語った。13日にも山口市内での記者会見で同様の発言をした。
「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」
事の発端は2016年2月、杉田氏がネット上に投稿したブログの記述。スイス・ジュネーブで国連の女性差別撤廃委員会が開かれ、日本のNGO関係者も多数参加して、女性の人権をめぐる日本の現状や問題点を委員らに訴えた。
14年の衆院選で次世代の党から立候補して落選し、現職議員ではなかった杉田氏も現地にいた。アイヌと在日コリアンの女性らの写真とともに、「目の前に敵がいる! 大量の左翼軍団です」「彼らは一目でわかります。ハッキリ言って〝小汚い〟」「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」などと記した文章をブログに投稿した。
その後、杉田氏は安倍政権下の17年に自民党の衆院議員となった。22年には岸田政権下で総務政務官となり、国会でブログの記述が問題視されて、表現の一部について謝罪し撤回した。
措置猶予でも、人権侵犯の事実なくならず
一方、アイヌと在日コリアンの女性は23年に入り、それぞれ札幌と大阪の法務局に被害を申告。札幌法務局はその年の9月、大阪法務局は10月に、杉田氏による人権侵犯を認めて「啓発」を行ったと、それぞれ申立人側に通知した。処理結果を通知する制度に基づく対応だ。
法務局から申立人側に届いた通知書には、いずれも「調査の結果、人権侵犯の事実があったと認められました」と明記されている。そのうえで「諸般の事情を考慮した結果、措置を猶予し、啓発を行いました」などと書かれている。
杉田氏の今回の発言について、法務省の人権擁護局は「個別の事案についてはコメントできない」としつつ、一般論として「措置の猶予は、人権侵犯の認定が前提となる。猶予されたからといって、侵犯の事実がなくなるわけではない」と説明している。
法務省「啓発は人権侵犯の有無にかかわらず行うことがある」
杉田氏は13日、「そのブログ消してくださいねという啓発だけをいただいた。人権侵犯の調査処理規程に、人権侵犯認定に当たるのは、要請、説示、勧告、通告、告発だけ(と書いてある)」とも述べている。
法務省の人権侵犯事件調査処理規程は、人権侵犯の事実があると認めた場合、「要請」「説示」「勧告」「通告」「告発」などの措置をとると規定するが、これらの措置を猶予することができるとも定める。
また、こうした措置とは別に「事案に応じた啓発を行う」と定める。相手方などに対し、人権尊重に対する理解を深めるための働きかけを行うという。法務省は「啓発は人権侵犯の事実の有無にかかわらず行うことがある。人権侵犯の認定をしても啓発をすることはある」(人権擁護局)としている。
一連の手続きは、法務省の人権擁護機関が担い、各地の法務局が窓口になっている。人権を侵害されたという人は、被害を申告することができる。法務局の職員や法相から委嘱された人権擁護委員が人権侵犯の事実があったかどうかを調査し、認められた場合、救済のための措置や啓発を行う。
23年に新たに手続きを始めたのは8962件で、内容の内訳は、プライバシー関係17.3%▽労働関係16.6%▽学校でのいじめ13.2%▽暴行・虐待12.4%などだった。
杉田氏の事務所「回答は差し控える」
朝日新聞は13日、「人権侵犯の認定は受けていない」とする発言は誤りだと指摘し、杉田氏に見解を求めた。杉田氏の事務所は18日、「本件に関して現在協議中であり、具体的な回答に関しては差し控えさせて頂きます」とコメントした。
【判定結果=誤り】
札幌法務局、大阪法務局から、それぞれの申立人側に届いた結果の通知書には「人権侵犯の事実があったと認められました」と記されている。人権侵犯の認定に基づく措置は猶予されたが、認定の事実は変わらない。