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(23日、第107回全国高校野球選手権大会決勝 沖縄尚学3―1日大三)

 2点リードされて迎えた九回裏。1死後、日大三の安部翔夢(3年)に打席が回ってきた。安部は四球を選び、続く桜井春輝(同)の内野ゴロが相手のミスを誘う間に、快足を飛ばして一挙に三塁へ。一塁側アルプス席の声援が一段と大きくなった。

 安部の父は、アメリカンフットボールの元日本代表で、ソルトレーク冬季五輪ボブスレー代表にも選ばれた安部奈知さん(55)。日大とリクルートのアメフト選手時代には、日本一に5度輝いた。元高校球児で、日大三野球部の卒業生でもある。そんな父は、安部にとって憧れの存在だ。

 ただ当初、安部は日大三には進まないつもりだった。父が同中・高の事務職員を務めていることもあり、野球部のスタッフには小さい頃からの知り合いが多い。「誰も知らない環境のほうがやりやすい」。父と息子でお互いに気を使うのも避けたかった。

 だが、中3の夏、西東京大会の決勝を神宮球場で見て、気持ちが変わる。劣勢をはね返して優勝した日大三のチーム一丸となった雰囲気や、当時の主将が泣きながら勝利インタビューに答えているのを見て、「日大三に行きたい」と強く思うようになった。

 入学した日大三には全国からレベルの高い選手たちが集まっていた。安部は基礎練習にみっちり取り組むとともに、50メートル6秒2の俊足や、選球眼の良さもアピール。三塁手のレギュラーの座をつかみ取った。父と同じユニホームを着て、父の夢だった甲子園の土を踏んだときは「これで親孝行できたかな」と思った。

 安部は3回戦、一回裏に値千金の適時三塁打を放つ。ほかの試合でも重要な場面で送りバントを確実に決めるなど、チームの快進撃を支えた。

 迎えた決勝。九回裏に三塁まで進んだ安部だったが、最後はダブルプレーで試合終了。優勝旗を手にすることはできなかった。本塁前で整列すると、涙がこみ上げてきた。

 安部の活躍を球場で見守った奈知さんは「バントや声かけなどチームのために一生懸命なのを見ているのがうれしかった。負けたときにこそ得られるものがあるので、それを忘れずに人生に生かしてほしい」。

 「ここまで来られたのは、いろいろなアドバイスをくれた父のおかげ」と安部。「日大三に入って、本当によかった」

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