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スーパーの店内で、「大の里―琴桜」の一番を見守る客ら=2025年5月23日、山形市、渡部耕平撮影

 大相撲の場所中、売り場に人だかりができるスーパーが山形にある。大関の琴桜関が勝ったらパンが半額、負けても3割引きになるらしい。でも、琴桜関は千葉県出身のはず。スーパーを挙げて琴桜関を推している理由は――。

 「スーパーおーばん山形東店」(山形市)には、力士ののぼり旗が立ち並ぶ。まるで巡業の会場のようだ。

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国技館のように力士ののぼり旗が立てられている、「スーパーおーばん山形東店」=2025年5月23日、山形市、渡部耕平撮影

 23日夕方。売り場の2カ所に置かれたテレビが、国技館の興奮を伝えていた。注目の大関対決、「大の里―琴桜」。ここまで全勝の大の里関が勝てば優勝が決まり、横綱昇進もほぼ確実になる。

 買い物かごを持ったお客さんたちが、画面を見つめる。店内のアナウンスが伝えた。「日本中は大の里関に期待しているかもしれませんが、私たちは琴桜関を応援しましょう。勝てば、パンが5割引きです!」

 いつものように気合十分の琴桜関だったが、勢いにのる大の里関に寄り切られた。

 「ああ~」と、ため息がもれる。お客さんたちは残念がりつつも、笑顔で両力士の健闘をたたえた。そしてすぐ、パンの売り場へ。店は応援の意味を込めて3割引きにした。

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「勝どきタイムサービス」を知らせるチラシ=2025年5月23日、山形市、渡部耕平撮影

もうけは、なしでいい

 店は、琴桜関が勝てばパンの多くを半額に、負けても3割引きにしている。入荷が大変だった時期にも、勝った日に卵1パック(10個入り)298円を98円にしたり、負けてもキャベツ1玉198円を178円に値引いたり。とにかく琴桜関への愛、お客さんへのサービスにあふれている。

 店内では大相撲の場所中、知らない人同士でも「今日は勝った?」「よかったわね!」と自然に会話が生まれる。みんな気になって仕方ないのだ。

 山形県内に19店舗を構えるスーパー「おーばん」のはじまりは、社長の二藤部(にとべ)洋さん(76)が1972年に尾花沢(おばなざわ)市で開いた精肉店だった。

 近所に、よくおつかいに来る男の子がいた。大きな体で、印象に残っていた。少年は中学を卒業後、佐渡ケ嶽部屋に入門。やがて「琴ノ若」のしこ名で関取になった。今の佐渡ケ嶽親方(57)だ。

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「スーパーおーばん山形東店」の入り口に飾られている二藤部洋社長(左)、大関の琴桜関(中央)、佐渡ケ嶽親方の写真パネル(部分)=2025年5月23日、山形市、渡部耕平撮影

 二藤部さんは親方の現役時代に尾花沢後援会長を務め、琴ノ若が勝つと、スーパーで花火を打ち上げて祝った。卵や牛乳などの生鮮食品を値下げするサービスも始めた。

 2005年に琴ノ若が引退し、親方として佐渡ケ嶽部屋を継いでからは、二藤部さんは部屋の後援会長に。部屋の関取が白星を挙げると、「勝(かち)どきタイムサービス」と名づけた食品の割引を続け、いつしかスーパーの名物になった。

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新十両に昇進した琴桜関(当時は琴ノ若)と佐渡ケ嶽親方(左)を迎えた、二藤部洋社長(右)=2019年5月31日、山形県天童市、上月英興撮影

 そんな二藤部さんにとって、親方の長男の琴桜関は「孫のような存在」だ。大関の本名は鎌谷将且(まさかつ)。幼いころから知っているから、「かっちゃん」と呼ぶ。場所中は、たとえ負けても「次があるから、がんばれ。これから連勝して優勝だ」と、LINEで励ます。

 昨年11月の九州場所にはつ…

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