真っ暗な海面に、水しぶきが上がる。灰色の背びれが波を切り、こちらに向かってくる。
私は一瞬たじろぎ、カメラを構え直す。捉えた映像には、本来そこにいないはずの動物が映っていた。
今年9月7日午前1時43分。私は福井市沿岸の漁港で定置網漁の漁船に乗り込んだ。過去3年間で50人以上にかみつくなどしてけがをさせたイルカの行方を調べるためだ。
オスのミナミハンドウイルカとみられるそのイルカは、8月20日に福井県南部の敦賀半島で55歳の男性をかんだ後、半島から姿を消していた。
最大搭載人員22人、19トンの漁船は、エンジン音を響かせながら3キロ沖の漁場へ向かう。
船頭がサーチライトで周囲を照らす。黄色い浮き玉が海面に並んでいるのが見える。浮き玉の下には、カーテン状の網がつり下げられている。
沿岸を回遊する魚は、カーテン状の網に行く手を阻まれると、網に沿って移動し、四方を囲われた巨大な生け簀(す)のような「袋網」に迷い込む。その広さは小学校のグラウンドほどある。
袋網は入り口がすぼまっていて、いったん中に入ると、なかなか外に出られない。袋網を巻き上げ、中に入った魚を水揚げするのが定置網漁だ。
巻き上げ開始から8分後の午前2時11分。その瞬間は、突然やってきた。
真っ暗な海で記者が目にしたのは、専門家たちも「見たことがない」「きわめて珍しい」と口をそろえる光景でした。記事の後半で、動画とともにお伝えします。
暗がりの中でブシュッと、大…