JR荻窪駅から南に歩いて15分ほど。住宅街を抜け、石造りの門構えをくぐると、木々の隙間から木造平屋の日本家屋が姿を見せる。書斎や客間、螺鈿(らでん)細工が施されたテーブルやイスに動物がモチーフの壁紙……。昭和初期に建てられた名建築が長い年月を経てよみがえり、一歩入ればタイムスリップしたような感覚になる。
【撮影ワンポイント】荻外荘
近衛文麿が自決した書斎で足が止まった。近衛の死後も遺族が改築せずに守り続け、当時の姿を残しているという。障子越しの光で照らされる室内の静かな雰囲気と、死後80年という時間の重みを表現できないか。柱や家具などの直線がゆがまないように撮影し、色温度も調整してやや温かみがある雰囲気に仕上げた。(友永翔大)
- 【特集】いいね!探訪記
国指定史跡の「荻外荘(てきがいそう)」は、戦前に首相を3度務めた近衛文麿(1891~1945)が8年間を過ごした私邸だ。日本を代表する建築家・伊東忠太が手がけ、1927年に建てられた。名付けたのは近衛と親しかった元老の西園寺公望で、「荻窪の外」にあったからだとの説がある。
1940年には、日独伊の連携強化を東条英機らと協議した「荻窪会談」が開かれるなど、国の先行きを決める舞台にもなった。戦後は一部が移築されたが、住民から保存の要望を受けた杉並区が2014年に土地や建物を取得し、4年後には移築部分も取得。10年がかりで再移築と復原の大規模なプロジェクトを進めてきた。
こだわったのは、壁紙や床の…