広島・長崎だけでなく、核開発・実験が行われた世界各地でヒバクシャが生み出され、健康や環境への被害が続いている。24日に開かれる「朝日地球会議2026」のセッションの一つが「核のない未来へ グローバルヒバクシャと考える」だ。登壇するピースボート共同代表の畠山澄子さんは、核のグローバル史などを掘り下げる研究者でもある。畠山さんがこの分野に関心を抱いたきっかけや、グローバルヒバクシャをめぐる線引き問題などを聞いた。
朝日地球会議2026
「朝日地球会議2026」は10月23日から東京都内でリアルとオンラインで開かれます。畠山澄子さんが日本原水爆被害者団体協議会事務局次長の児玉三智子さんや本紙記者とグローバルヒバクシャについて語るセッションは10月24日に開かれます。
畠山さんは2008年、初めて地球一周の航海に出た。103人の広島・長崎の被爆者とともに寄港したベトナムで、米軍が散布した枯れ葉剤の影響とみられる障害がある子どもたちと交流した。ある被爆者は自分に言いきかせるように語った。
「私は被爆者だから、結婚しないし、子どもも産まないのよ。私の生き方は間違っていなかった」
彼女の話にはキノコ雲も、やけども出てこない。それでも、葛藤や痛みを伴うリアルな被爆証言だと感じた。
米ソ英仏が核実験を重ねたマーシャル諸島やカザフスタン、キリバス、仏領ポリネシアのタヒチなどでは、世代を超えた健康被害が続いているが、被爆国・日本では、ほとんど知られていない。
「そもそもヒバクシャって誰のこと? 誰がそう決めたの?」
航海と交流を続けながら、米国のペンシルベニア大学大学院へ。米国が広島・長崎に設立して被爆者の調査・研究をした原爆傷害調査委員会(ABCC、現・放射線影響研究所)の研究で知られるスーザン・リンディ教授の指導を受けた。博士論文では、ABCCの研究者らのインタビューや文献調査をするとともに、「科学的知見」を盾に原爆症認定を拒んだ国と争い、00年に認定を勝ち取った長崎の被爆者・松谷英子(まつやひでこ)さんの訴訟を取り上げた。
松谷さんは3歳5カ月の時、長崎原爆の爆心地から2.45キロの自宅縁側で被爆。飛んできた屋根瓦で頭の骨が陥没し、意識を失った。やがて下痢や脱毛も始まり、頭部の傷口が一応治癒したのは2年以上たってからで、右半身不随となった。
1977年と87年に原爆症認定を国に申請したが、いずれも却下された。審査で国は、ABCC・放影研による被爆者の追跡調査データと米国内での核実験データに基づいて米国が開発した原爆放射線線量評価システム(DS86など)を使って各被爆者の被曝(ひばく)線量を推定。おおむね2キロ以遠の被爆者の疾病は放射線に起因しないとして申請を却下してきた。この基準は、原子力産業の国際的な放射線被曝防護基準としても使われてきた。
松谷さんは却下処分取り消しを求めて88年に提訴。国は松谷さんの脱毛は栄養不良やストレスが原因などと主張したが、一審、二審に続き、最高裁も国の上告を棄却し、松谷さんを原爆症と認める判決が00年に確定。DS86を機械的に適用する審査のあり方を批判した。
畠山さんは博士論文で、こう結論づけた。
「……2.0キロ対2.45キロといった数値基準自体、1945年8月に起きた出来事の極限的混乱と複雑さを無視している。……DS86は原子力産業が将来、集団レベルで放射線の影響をどれくらい受けるかのリスクを計算するには信頼できて、便利だった。しかし、個人レベルで過去に受けた影響を再構築したり、被爆者の尊厳や正義を守ったりするには不十分であり、時に不適切でもあった」
救われるのは国のお墨付き集団だけ?
畠山さんは現在、立教大学の非常勤講師として「『核』から知る世界」の授業を担当し、三つの「問い」を学生らに与えている。
①広島・長崎を伝えるとはどういうことか
②“核の時代”の被害者は“(広島・長崎の)被爆者”だけか
③社会は変えていけるのか
「グローバルヒバクシャ」をテーマにしたグループワークでは、今年はこの五つをテーマとした。
A 米国のヒバクシャ:ナバホ族・ウラン採掘、(核実験場の)風下住民、核兵器製造
B 旧ソ連のヒバクシャ:セミパラチンスク核実験場
C 仏領ポリネシアのヒバクシャ:ムルロア環礁、死の灰
D 英国(英国領)のヒバクシャ:アトミック・ベテランズ/アトミック・ソルジャー
E インドのヒバクシャ:ウラン鉱山、原発、核開発
畠山さんは「とにかくあなたたちは、ヒバクシャの証言や核被害のことを自分で調べて、どう思うの?」と問いかける。学生たちは、なぜ核被害者がうまれ、どのように被害が明らかになり、被害に対してどのような対応がなされてきたのかを徹底的に調べ、発表する。
核大国の核実験や開発の被害を受けてきた途上国とNGOが中心になって策定した核兵器禁止条約が発効して5年。11月末から初の再検討会議が開かれる。署名国は100カ国・地域を超えた。条約が定める核被害者救済と環境修復のための「国際信託基金」の設立などについて話し合う。
ここでも、誰がヒバクシャで、誰がそれを決めるのかが問われている。救済の対象は「科学的知見」による国のお墨付きを受けた集団だけなのか、それとも核大国の加害責任を問い、「核の正義」を訴える被害者個人に寄り添うのか。被爆国・日本政府はどう対応するのか。
畠山さんは、7歳の時に広島で被爆した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)事務局次長の児玉三智子さんとともに登壇し、グローバルヒバクシャ救済と核廃絶の道筋を考える。
畠山澄子さん略歴
はたけやま・すみこ 核のグローバル史、科学技術と社会論が専門。核軍縮関連の国際会議への参加経験を生かし、講演活動も行う。
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