日常のふとした出来事にイライラをつのらせてしまう。本当は相手に伝えたいけれど、うまく言えない。今回は、そんな悩みについて考えます。

水を注ぎに来ない…飲食店でモヤモヤ

 30代の会社員サキさん(架空の人物)は、その日、ランチを食べに入ったお店で、小さなモヤモヤを三つも抱えることになりました。

 まず、席に着いてからしばらく経っても、水を一度もつぎ足しに来ません。ようやく若い店員に声をかけると、こう言われました。

 店員「ご注文はスマホでお願いします」

 その言い方が、どこか上から目線に感じられ、サキさんは少し驚いてしまいました。

 サキ「え……お水のことを聞いただけなのに」

クレーマーにはなりたくないけれど、モヤモヤが消えない=イラスト・中島美鈴

 さらに会計の段になって、レジで初めて「当店はカード払いに対応していません」と告げられます。財布の中身を数えながら、サキさんはこう思いました。

 サキ「それ、先に言っておいてほしかった……」

 店員の態度もどこか投げやりで、サキさんはもやもやしたまま店を出ました。

マンションの駐輪場でも、モヤモヤ

 その週末には、マンションの共用駐輪場で、いつも自転車を通路の真ん中に止めている住人に気づきます。後から自転車を止める人のことなど、まったく考えていない止め方です。何度か「少し端に寄せていただけますか」とやんわり伝えてみたこともあるのですが、状況はあまり変わりません。

 サキさんは自分なりに相手を傷つけないよう、イライラを表に出しすぎないよう、ずいぶん気を使って生きています。それなのに、少しでも意見を口にすれば「クレーマー」と呼ばれてしまう最近の風潮に、すっかり萎縮してしまい、何も言えないまま、より鬱屈(うっくつ)とした気持ちを抱え込んでいます。

あなたなら、イライラしますか?

 ここで、ちょっと想像してみてください。もしあなたが同じ場面に出会ったら、サキさんのようにイライラを感じるでしょうか。それとも、「自転車がどこに止まっていても、通れればまあいいか」「おいしいご飯が食べられれば、接客はそこまで気にしない」というふうに、あまりこだわらずに受け流せるタイプでしょうか。

 どちらが正しい、というものではありません。ただ、この違いを知っておくことは、自分自身のイライラの正体を理解するうえで、とても役に立ちます。

「べき思考」を強く持っていた理由

 冒頭のサキさんの例に、もう一度戻りましょう。認知行動療法(考え方のクセや、その後の行動を少し見直すことで、気持ちを楽にしていく心理療法)では、こうした場面を、その人の物事の捉え方から見つめ直すことがあります。

 サキさんは、「お店なら、こうあるべき」「マンションの住人なら、これくらいのマナーは守るべき」という、いわば「べき思考」を人一倍しっかり持っている方でした。この背景には、他人への高い配慮があったと考えられます。

 つまり、「客として、あるいは住人として、いちいち言葉にしなくても、それくらいのマナーやルールは自然に守られてほしい」という思いと、「かといって自分がひどい言い方をして、相手に対して失礼になってはいけない」という配慮の両方を、サキさんは同時に抱えていたのです。だからこそ、モヤモヤをそのままのみ込んでしまい、気づけば言葉にできないままため込んでしまう。そんな悪循環に陥っていたのだと考えられます。

「言わなきゃ分からない」時代に

 サキさんのようなタイプの方に、まずお伝えしたいのは、こういうことです。

 世代を超えて、以前よりカジュアルな時代になった今、すべての人に、他人への配慮が同じように行き渡っているとは限りません。かつては「言わなくても分かるだろう」とされていたことも、今は言葉にして伝えなければ、なかなか通じない時代になってきているのです。

 だからこそ、イライラをため込まず、寝かせずに、早めに、できればその場で口にしてみることをおすすめします。

 イライラは、時間を置けば置くほど、心の中で沈殿し、まるで発酵するかのように大きくなっていきます。反対に、その場ですぐに口にしてしまえば、感情がふくらみすぎる前に、まだ柔らかい表情のまま伝えることができるのです。

怒りを寝かせず、リアルタイムで伝える

 具体的には、次のような伝え方を意識してみてください。

 たとえば、お水をつぎ足してほしいときには、

 サキ「すみません、お水をいただけると助かります」

 と、その場ですぐに、柔らかい表情で伝えてみます。カード払いができるかどうかも、席に着いた時点で確認してしまえば、レジでのモヤモヤを避けられます。

 自転車の件についても、「困っています」という事実だけを伝えるのではなく、

 サキ「通路の真ん中に止まっていると、後ろの人が通りにくいので、端に寄せていただけると助かります」

 というように、あくまで自分の感想や気持ちとして伝える「Iメッセージ」を意識してみましょう。「~してもらえると助かります」「~していただけるとうれしいです」という言い方は、相手を責めるクレームのようには聞こえにくく、自分自身も言葉にしやすいものです。反対に「Youメッセージ」では「あなたはそうすべきじゃない」という批判になりがちなので注意が必要です。

自分の気持ちを大切にする

 まとめると、クレーマー呼ばわりされずに上手に人付き合いをしていく秘訣(ひけつ)は、次の三つです。

 ①他人は、言わなければ分かりません。

 ②怒りが沈殿し、大きくなってしまう前に、リアルタイムで伝えましょう。

 ③真顔で言い放つのではなく、「あくまで私の感想ですが」というIメッセージの形で、「こう言ってもらえると助かります」「こうしてもらえるとうれしいです」と伝えてみてください。

 サキさんも、次にお店で同じような場面に出会ったとき、勇気を出して試してみました。

 サキ「お水、いただけるとうれしいです」

 言ってみると、思っていたよりずっと軽く、相手にも自然に伝わりました。

 あなたのイライラも、我慢してため込む必要はありません。ため込む前に、少しずつ言葉にしてみることから、始めてみてください。

    ◇

 このコラムでご紹介したイライラの取り扱い方についてもっと知りたい方は「脱イライラ習慣!あなたの怒り取扱説明書」中島美鈴(すばる舎、2024)もどうぞ。

<臨床心理士・中島美鈴>

 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。

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